2009年6月17日(水)「しんぶん赤旗」
主張
「安心社会実現」
旗印が立てたくても立たない
首相、経済財政相らと有識者でつくる安心社会実現会議が報告書をまとめました。
会議の発足の際に麻生太郎首相は、「日本が目指すべき国家像について議論をしていただきたい」と語っています。選挙前に政権の「旗印」を立てようというのが狙いですが、報告書を見る限り完全に「空振り」に終わっています。
「構造改革」反省もせず
報告書は世界経済の変化などによる国民の「不安」を社会保障の「機能不全」が増幅し、格差と貧困が「社会の活力」を弱めていると指摘しています。目指す「安心社会」は第一に「働くことが報われる公正で活力ある社会」であり、「中福祉の綻(ほころ)び」を修復し、財源として消費税増税への道筋を明確にするよう求めました。
報告書は深刻な現実の一端を指摘しています。しかしそこには国民の「不安」や社会保障の「機能不全」、「貧困と格差」拡大の根源にある「構造改革」路線への反省は、ただの一言もありません。
原因を正さなければ根本対策は打ち出せません。だから高齢者を苦しませている「後期高齢者医療制度」や、障害が重い人ほど負担が重い「障害者自立支援法」の抜本見直し・廃止も掲げられませんでした。2200億円の社会保障抑制路線の転換さえ明確にできないのでは、お話になりません。「綻び」を修復する程度の、まさに弥縫(びほう)策にとどまっています。
「働くことが報われる公正で活力ある社会」といっても雇用保険の適用拡大など、もっぱら“事後対策”を主張するだけです。
本来適用されるべき雇用保険や厚生年金、健康保険を非正規雇用に直ちに適用するのは当然です。同時に、それだけでは「働くことが報われる」社会が実現できないことは明らかです。非正規雇用を急増させた派遣法の規制緩和を改め、サービス残業を一掃するなど大企業の横暴をやめさせるルールの確立、人間らしく働ける労働のルールづくりが不可欠です。
世界経済危機のもとで起きている事態は、日本の「社会的ルール」の異常なまでの立ち遅れをはっきりと示しています。
失業は欧州でも増えていますが日本のように直ちに生活の糧を奪われ、多くが路上生活を迫られるようなことはありません。経済大国・日本の首都で「派遣村」が出現したことを、世界のジャーナリストが驚きをもって報道しています。
もともと低水準の社会保障が「構造改革」で連続改悪され、庶民増税が「貧困と格差」に拍車をかけています。
日本の経済危機が欧米に比べても一段と厳しいのは、わずかに残った国民生活の“防波堤”さえ「構造改革」路線によって取り壊されてきたためです。
根深い「財界言いなり」
矛盾が噴出しているにもかかわらず、「構造改革」路線を転換できない原因は、与党内の勢力争いだけではありません。根本には「構造改革」の司令塔・財界にモノが言えない、根深い「財界言いなり」の体質があります。
財源といえば庶民に重い消費税増税の一方、大企業には保険料の負担が増えるから「法人税引き下げ」(報告書)というのはその象徴であり本末転倒の極みです。旗印を立てたくても財界にモノが言えない政党には立てられません。