2009年6月11日(木)「しんぶん赤旗」

レバノン総選挙 市民は

内戦・干渉を克服
平和・安定へ自信

南部 ヒズボラが警備、緊迫した空気も


 「宗派間の共存」「平和で安定した国へ」「外国の干渉のない平和なレバノン」―。レバノンの総選挙取材を通じ、宗派を超えて有権者から語られた言葉です。長い内戦と外国からの干渉と侵略を耐え、未来に希望を託す人々の思いが伝わってきます。(ベイルート=松本眞志 写真も)


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(写真)投票所で「平和で安定したレバノンで暮らすのが夢」と笑顔で語るサマハ・モハメドさん(右)=7日、ベイルート

 今回の選挙は、過去のイスラム教徒とキリスト教徒の対立を中心とした内戦(1975〜90年)、76年のシリア軍介入、82年のイスラエル軍による侵略とその後のレバノン南部占領(2000年に撤退)、ハリリ元首相暗殺(05年)を契機とした新たな対立など、国民がかかえてきた困難を克服する過程で実施されました。昨年、新大統領を話し合いで選出し、懸案のシリアとの外交関係を確立したことで、国民は平和で民主的な国づくりを目指す自信を強めているように感じられました。

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 選挙では各党派の運動員がそれぞれのイメージカラーのシャツを着て支持を呼びかけます。与党イスラム教スンニ派主体の「未来運動」は青、同じ与党でキリスト教マロン派「レバノン軍団」は白、野党シーア派のヒズボラは黄色、アマルは緑、野党キリスト教マロン派「自由愛国連合」はオレンジ色といったぐあいです。選挙中彼らは屋内演説会や候補者カーで宣伝し、有権者への支持を訴えていました。他のアラブ諸国では見られない、むしろ日本の選挙運動に近いものを感じます。かつて武器を手にして争っていたのが、いまでは言論によるたたかいに置き代わっているのです。

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 投票日、ベイルート第3選挙区の投票所を訪れたとき、建物の内外は人々でにぎわっていました。政府軍兵士や警察が人々の整理に追われていました。中に入ろうとすると、突然、青色のシャツを着た「未来運動」の女性スタッフが、候補者名が刷り込んである名刺大のカードを差しだしました。「ハリリ(党首名)の党をよろしくね」と笑顔で語りかけます。投票所の中も笑い声が絶えません。女性でも「えっ! 日本から来たの?」と驚きながら、取材に積極的に応じてくれました。

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 平和で明るい雰囲気がある一方、レバノンにはいまなお緊迫した空気が存在します。今回は記者証発行と同時に内務省での登録を義務づけられました。前回はプレスセンターでの登録のみです。理由を聞くと、先月、レバノン国内でイスラエルのスパイが数人摘発されたこと、イスラエル軍が現在、ヒズボラ、イラン、シリアとの戦争を想定した軍事演習を行っていることのためといいます。政府軍からは予定したレバノン南部地域の取材許可は出ませんでした。

 取材制限は首都の中での移動にもありました。ベイルートの南部地域で06年のイスラエル軍による戦争被害の復興状況を見ようとしたところ、「許可証を持っているのか」と住民から逆にたずねられました。記者証を出すと、「それじゃない。抵抗運動(ヒズボラ)の許可を得ているのか」といいます。ヒズボラ支持の強い地域では政府発行の許可証は効力がありません。

 戦争の被害を受けた住民にヒズボラは宗派を問わず金銭的な援助を行い、住民に強い影響力を持っています。ヒズボラの本部ではついに取材許可は出ませんでした。首都南部地域では警備活動も政府の警察ではなくヒズボラの治安部隊が行っています。

 外国の干渉のない平和で自由なレバノンの実現に向けて、いまなお解決するべき問題が残されていることを強く感じました。


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