2009年5月30日(土)「しんぶん赤旗」
主張
原爆症認定
全面解決への決断を求める
原爆症の認定をめぐり、国・厚労省が解決のタイムリミットといってきた集団訴訟の東京高裁判決がだされました。判決は原爆症の認定を求める被爆者の要求と度重なる判決に押され、政府が昨年新しい審査方針を導入したもとでも未認定だった被爆者のうち九人を認定すべきとしました。集団訴訟では国・厚労省の十八連敗です。
日本共産党の志位和夫委員長は、判決は審査方針の再改定、訴訟の全面解決への指針を示すものとのべ、政府は「もう待てない」という原告の思いを受けとめるべきだと指摘しました。全面解決へ、政治の決断が強く求められます。
被爆実態を直視した結論
今回の判決は、原告がこれまでの判決を「集大成したもの」と評価するように、改めて国の原爆症認定審査方針の根本的見直しを迫ったものです。
判決は、認定審査にあたっては被爆者援護法の前文をふまえ、「単なる社会保障的観点に基づくものではなく、戦争遂行主体であった国の国家補償的措置として行われるものである」ことを基本とするよう指摘しました。しかも認定の根拠となる放射線起因性の判断基準について、対立する科学的知見がある場合には、「厳密な学問的な意味における真偽の見極めではなく」、それを前提として全証拠を総合して判断すべきとしました。
従来の原爆症認定審査方針は「欠陥」、適格性を欠くという批判は、現在の審査方針への批判にもつながるものです。
判決は現在も積極認定の対象となっていない肝機能障害、甲状腺機能低下症の放射線起因性を明快に認めました。爆心地から四キロメートル、五キロメートルの地点での被爆や爆発後百二十時間以降に入市した被爆者についても、急性症状や健康状況の変化など総合的判断で原爆症と認定すべきとしました。
今回の判決を含め十二判決が新方針導入後ですが、そのすべてで、新方針では認定されなかった被爆者についても、原爆症と認定すべきという司法判断が出されています。厚労省は新審査方針導入で、認定数が二十三倍にもなったと強調します。しかしそれは毎年の新規認定者数についてで、被爆者全体からみれば、原爆症と認定された人が1%足らずから2%になったにすぎません。八千人近くが審査待ちという状況です。
しかも認定を求める集団訴訟が始まって以来、六年にわたる裁判のなかで、三百人余の原告のうち六十八人も亡くなっています。一刻も猶予はありません。認定審査方針の再改定と訴訟の全面解決に踏み切るときです。
被爆国政府の道義的責任
これまでの集団訴訟の判決に照らせば、(1)一審勝訴で未認定の原告五十九人をただちに認定、未判決・敗訴の原告は被爆者救済の立場で対応し、原告全員救済による訴訟の全面解決を図ること、(2)肝機能障害、甲状腺機能障害を積極認定対象に加え、対象外については「疑わしきは被爆者の利益に」の立場で判断すること―など、被爆者らの要求は当然です。
オバマ米大統領は、核兵器を使用した国としての道義的責任にたち、「核兵器のない世界」をめざすと発言しました。日本政府が認定問題を全面的に解決し、実態を世界に伝えることは、唯一の被爆国政府としての道義的責任です。
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