2009年5月18日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

押し寄せる貧困の波

学費滞納・中退 増

私学助成拡充へ生徒も運動


 全国の私立高校1231校に100万人を超える生徒が学んでいます。いま貧困と不況の波が押し寄せ、学費滞納、経済的な理由で中退する生徒が増え続けています。生徒への授業料助成の拡充は切実です。この問題で全国私立学校教職員組合(全国私教連)の永島民男書記長に一文を寄せてもらいました。


全国私教連

永島民男書記長

 全国私教連が毎年実施している三月末の「学費滞納・中途調査」には今年度、全国の私立高校の四分の一にあたる三百十五校から回答を得ました。経済的理由で中退した生徒のいる学校は42・5%(百三十四校)、三カ月以上の学費滞納を抱えている生徒がいる学校は66・0%(二百八校)にのぼりました。

 この一年間に経済的理由によって中退した生徒は三百十五校の五百十三人(一校平均一・六人)で、中退率(全調査生徒数の0・2%)もきわめて深刻な状況が続いています。全国から滞納・中退の深刻な事例が届いています。(別項)

 私学助成には学校法人への経常費助成と各家庭への授業料助成とがあります。

◆制度の仕組みは

 経常費助成は、その財源の約九割が国からの予算、文部科学省予算(国庫助成)と地方交付税交付金とで構成され、残りが各県単独予算で措置されています。しかし財源不足の影響で県単独予算が削減の対象とされ、さらに使用目的が限定されないという理由で交付税交付金の算定額を割り込む自治体が、二〇〇九年度は埼玉、大阪、愛媛、神奈川、島根各府県と増えてきており、その結果、自治体によって学園財政に占める助成金比率の格差が生じています。

 たとえば、生徒一人あたりの助成金単価は上位の鳥取県五十五万六千円、愛知県四十五万七千円にたいし、下位は埼玉県二十九万二千円、千葉県三十万六千円となっています(全国平均は三十五万七千円。〇八年度版「今日の私学財政」)。

◆各県にばらつき

 授業料助成は、生活保護と家計急変世帯を除いて全額各県負担であるため、県の財政や関係者の運動によって助成制度に大きな差が生じています。

 全国私教連は各県での授業料助成制度を一覧表(別表参照)にしてバラツキを告発するとともに、国としての授業料助成制度確立に向けて運動しています。

 また、授業料助成などは申請主義で、該当していても申請しなければ給付されません。山形県の場合〇八年度に全県生徒数の30%を対象に予算措置をしましたが、実際申請交付されたのは18%だったことが報じられています。

 私たちは三月に行った「教育費ホットライン」の教訓から、全国私教連として、これらの給付による授業料助成だけでなく、都道府県の奨学金貸与制度、社会福祉事業としての修学支援制度などをまとめた「学費・奨学金の相談にどうこたえるか」をまとめました。お悩みの方はホームページを見るか、電話でご相談ください。

◆愛知募金1億円

 私学助成の拡充を求める運動は、父母、教職員、経営者にとどまらず、最近は生徒自らの問題として大きくかかわってきています。

 五月四日には全国の高校生が名古屋市に集まり、私学助成の拡充を求めて記者会見しました。生徒会の課題として全校一斉ホームルームでの私学助成学習会を開催した学校、県への要請、街頭署名活動、自主的な奨学金財団への生徒が中心となった募金活動です。

 愛知では教職員が始めた私学奨学金財団を生徒が引き継ぎながら一昨年募金額が一億円を超えました。この取り組みは京都、熊本、北海道へも広がっています。


■制服買えず■バイト漬け

・高校二年生の長期滞納の生徒。親のリストラで生活が困窮し、授業料が七カ月滞納。家庭訪問などで対応していたが、年明けに急に姿が消え住所なども不明。退学手続きもできず、近く除籍せざるを得ない。(北海道A校)

・3年に進級が決定してクラス替えも終わり、新学年に入る矢先に母親から電話で「下の子が私立高校に入ることになったので2人分の学費は出せない。上の子に退学して働いてもらうことにしました」と連絡が入った。家庭の事情に担任も級友も口を挟むわけにはいかず、結局退学した。(東北B校)

・減免を受けているので授業料の滞納はないが、施設設備費がほとんど納まっておらず、割印のない仮卒業証書しか渡すことができなかった生徒が二人出た。卒業式の数日前そのうちの一人の保護者から「うちの息子は卒業式に皆と一緒に参列できるのでしょうか?」と問い合わせがあった。(関東C校)

・新入生の準備登校の日、入学金は払ったものの制服などを準備できないと、三人が登校せず、入学辞退になった。(近畿D校)

・アルバイトをすることを前提に入学する新入生が増加している。時給九百円で月八万円を得る生徒もいる。労働時間に換算すると月八十九時間、一日当たり三・六時間。心身ともに疲労こんぱいの状況で、すべてがアルバイト優先になっている。(中国E校)

表

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