2009年5月18日(月)「しんぶん赤旗」
主張
P3C派遣命令
新たな段階迎える海外派兵
浜田靖一防衛相は十五日、「海賊対処」を名目に、海上自衛隊の艦艇二隻が活動しているソマリア沖に、海自のP3C対潜哨戒機部隊を派遣する命令をだしました。
P3C二機は下旬に出発し、六月上旬から活動する予定です。とりあえず現行自衛隊法の海上警備行動として活動し、武器使用の権限を拡大する「海賊対処」派兵新法案の成立後は同法にもとづく活動を実施します。対潜爆弾をもつP3Cが自衛艦と合流し、「海賊対処」の海上作戦に参加すれば武力行使の危険をいっそう大きくさせることになりかねません。
ジブチとの地位協定
P3Cは、潜水艦を探知・攻撃するのが主な任務の軍用機です。一九九九年三月能登沖でおきた「不審船」事件のさい、海上警備行動として、北方に向けて速度をあげる「不審船」の周囲に対潜爆弾を何度も投下しました。威嚇のためとはいえ、一歩間違えば重大な事態になるところでした。P3Cが参加すればソマリア沖でも同じことがおこりえます。
とくに新法案は、他国の船舶に「著しく接近」「つきまとい」「進行を妨げる」「海賊」に対して自衛隊が発砲する権限を与えています。P3Cが爆弾を投下し、海賊船を撃沈するおそれもでてきます。海上の情報収集だけしかやらないと思い込むのは危険です。
P3C部隊の派遣は海外での本格的な派兵強化につながります。
見過ごせないのは、P3C部隊のジブチ駐留に伴い日本政府がジブチ政府と締結した自衛隊地位協定です。海自約百人、陸自約五十人の駐留と空輸任務を担う空自の特権を認めさせています。
例えば、刑事裁判権について、日本は「すべての刑事裁判権及び懲戒上の権限をすべての要員について行使する」と規定しています。ジブチ国民に対する自衛隊の犯罪はジブチが裁くのが当然です。日本が裁くというのは、ジブチの主権に対する乱暴な侵害です。日本に駐留する在日米軍が公務中に日本国民に犯した犯罪について、すべてアメリカが第一次裁判権を握るとした屈辱的な米軍地位協定となんら変わりません。
ジブチ国民を死亡させ、損害を与えた場合の賠償も、「協議を通じて友好的に解決」するとしか書いていません。「合理的な賠償」「損害・損失を賠償」と明記したクウェートとの自衛隊地位協定と比べてもひどい内容です。自衛隊の撤退について、クウェート地位協定は、クウェートが日本に「いつでも撤退を要請できる」としていましたが、ジブチとの自衛隊地位協定はその規定さえありません。
中曽根弘文外相は国会で、「日本側に対する優位的なものを取り決め」たと自賛しました。日本側に優位ならジブチの主権を無視してもかまわないというのは重大です。政府は、「海賊対処」を名目にして外国の主権を侵すような態度をとるべきではありません。
派兵新法案は廃案に
日本は戦争放棄、戦力不保持を明記した憲法をもっています。いかなる名目であれ海外派兵は憲法違反であり、許されません。「海賊対処」で必要なのは、荒廃したソマリアの復興とソマリア沖周辺国家の沿岸警備能力の強化です。その支援こそ日本の役割です。
政府は海外派兵をやめ、政治・外交努力に徹すべきです。