2009年5月14日(木)「しんぶん赤旗」

主張

農政改革

抜本転換への国民的な議論を


 麻生太郎内閣が農政の見直しを進めています。日本農業の衰退に歯止めがかからず、農村の疲弊がますます深刻化するなか、農政の抜本的な転換は不可欠です。しかし、政府の見直し作業からは、農業を再生させる政策的枠組みは見えてきません。

農業所得低下に危機感

 農政の見直しは、官房長官、農水相、財務相、経済産業相らからなる「農政改革関係閣僚会合」の下で、各省官僚らが主体の「特命チーム」が作業にあたっています。一月下旬に開始し、四月には「農政改革の検討方向」を決定しました。今夏には「農政改革の基本方向」をまとめる予定で、政府が六月に策定する「骨太の方針」や八月末の来年度予算概算要求に反映させたいとしています。

 「農政改革の検討方向」(以下、「方向」)は日本農業が「産業としての持続可能性喪失の危機に直面している」と指摘しました。政府自身がこれまでの農政の失敗を認めざるを得ない事態です。

 とりわけ農業所得を増やす必要を強調しています。ヒアリングでも「若者の参入にはそれなりの所得が必要」(神奈川県副知事、福島県白河市農政課長など)との意見が出ました。農業所得は一九九二年からの十五年間で半減しました。所得増大の方針は当然です。

 しかし、そのために「方向」が求めるのは「販売量の拡大と単価の向上、コスト低減」という経営努力です。これでは従来路線と変わりません。失敗を重ねることになります。政府が奨励する経営努力を進めた大規模経営でさえ、経営が成り立たないのが実情です。

 青年が参入するような日本農業の再建には、農業経営を安定して行える条件を保障しなければなりません。再生産できる制度を整備するのは農政の責任です。

 日本共産党は「農業再生プラン」(昨年三月発表)や総選挙政策で、生産コストをカバーする農産物の価格保障とそれを補う適切な所得補償を組み合わせるよう提案しています。価格保障・所得補償制度の充実なしには、「農業所得の増大」は空文句にすぎません。

 「方向」は農政への新たな不安も引き起こしています。「食料安定供給のための政策目標」を検討するとし、「食料自給率」とともに「食料自給力」という用語を使うといいます。自給率の目標を示さないばかりか、自給率引き上げを農政の目標から外す可能性を示唆しています。特命チームの財務、経産など各省官僚からは、予算や国境措置を伴う「食料自給率」の考え自体を拒否する見解が表明されています。これも自民党農政の破たんの表れです。

 昨年、世界的に食料が逼迫(ひっぱく)するなか、福田康夫首相(当時)は自給率向上に「あらゆる努力を払う」と約束しました。現在40%の自給率(カロリーベース)を50%に引き上げることが政府方針のはずです。

自給率引き上げを目標に

 もはや食料を世界中から買いあさる時代ではありません。安全な食料の安定供給はもちろん、中山間地などの地域経済を活性化させるうえでも、国土と環境をまもるうえでも、食料自給率を50%以上に引き上げることを農政の目標にしっかりとすえるべきです。それでこそ、農業再生に広範な国民の支持を得られるのです。



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