2009年5月6日(水)「しんぶん赤旗」
主張
宇宙基本計画案
軍事態勢を強めることになる
政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)の専門調査会が、宇宙の軍事利用に向けた宇宙基本計画案を了承しました。五月中旬までに国民の意見を求め、同月下旬に正式決定します。
計画案には、二足歩行ロボットによる月探査など夢につながる目標もあります。しかし、日本の宇宙政策の「安全保障分野の活用」や「宇宙外交」を強調していることからもわかるように、宇宙の軍事利用を高めることが中心であるのは明らかです。
海外軍事動向の監視
計画案はアメリカ、ロシアなどの宇宙大国と比較し、日本の軍事利用が「限られている」といって危機感をあおっています。戦争を禁止した憲法をもち、宇宙開発を「平和利用に限る」と明記した国会決議をもつ日本を、宇宙まで侵略戦争のために利用している国と比べること自体、そもそも間違いです。日本を宇宙軍事利用の国にするのは、憲法の精神にも国民の意思にも反します。
計画案は、「関心地域」や「日本周辺海空域」での「警戒監視機能を強化」するといっています。アフガニスタンなどアメリカが戦争を行い、自衛隊が参加している地域も含まれます。原案から削除されたとはいえ、北朝鮮のミサイル開発を想定しているのも否めません。五年以内に情報収集衛星を現在の三機から四機体制にして、「地球上の特定地点を一日一回以上」監視するのは、まさに海外での戦争に備えるためです。
「自衛隊の本来任務となった国際平和協力活動等における通信手段等を確保」するとものべています。これも海外の戦場で必要な通信を確保し、指揮・命令を保障することが狙いです。
日本は地上監視のための情報収集衛星をもっていますが、弾道ミサイル対処の早期警戒衛星はもっていません。計画案は、早期警戒衛星の保有を視野にセンサー(探知装置)の研究にふみだすとしています。アメリカ本土を標的にするミサイルを、自衛隊が撃ち落としアメリカを防衛することにもつながるだけに大問題です。
見過ごせないのは、計画案が日本の宇宙産業いいなりの産物だということです。日本経団連が二月に発表した「戦略的宇宙基本計画の策定と実効ある推進体制の整備を求める」要求は、宇宙関連産業の全体規模は六兆円をこえるとそろばんをはじいたうえ、「官民連携」を求めています。財界の利益のために税制上・金融上の支援を明記した計画案は異常です。
文科省が所管する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内閣府移管も狙っています。「基盤的研究」や「平和目的に限り」が原則のJAXAでは、軍事利用を押し付けにくいからです。軍事秘密を口実に宇宙開発の「自主・民主・公開」の原則も危うくなります。
国民犠牲を許さない
軍事衛星の開発・保有一つとっても、それには巨額が必要です。防衛省が宇宙の軍事利用の第一号とした情報収集衛星の開発・運用だけでも総額が六千億円もかかっています。早期警戒衛星は一機でも五千億円以上といいます。こうした天井知らずの経費負担の犠牲にされるのは国民生活予算です。
宇宙の平和のためにも国民の暮らしを守るためにも、宇宙の軍事利用を許さないことが重要です。
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