2009年5月4日(月)「しんぶん赤旗」

主張

温暖化対策の中期目標

議論の筋道が違っていないか


 こんな議論をしている場合か、と思わずにはいられません。地球温暖化対策の中期目標をめぐる政府の議論です。検討が遅過ぎます。それだけでなく、議論の出発点も、アプローチや論点もおかしい―。温暖化問題に取り組む環境NGO(非政府組織)も政府の姿勢を批判しています。

切迫感も責任も

 温室効果ガスの排出削減目標を定めた京都議定書の第一約束期間は二〇一二年で終わります。二〇年がめどの次期の削減目標を決める国際交渉は、期限まで七カ月を残すだけです。合意形成に拍車をかけようと、先月ボンで国連特別作業部会が開かれました。しかし各国間の開きは埋まらず、日本は会議の足を引っ張りました。

 政府が中期目標のたたき台としているのは、一九九〇年比で二〇年に「4%増」から「25%減」までと幅のある六案です。ボン会議で「4%増も選択肢」と発表した日本の姿勢はどう受け止められたでしょうか。政府には切迫感も責任感もうかがえません。

 先進国にはより大きな削減が迫られています。新興・途上国が先進国の動向を注視する中、主要先進国では日本とロシアだけが中期目標を設定していません。日本政府が目標設定を先送りしてきたのは、欧米など他国の動きをみながら、“有利”に事を運ぼうとするからです。姿勢を転換し、国際的に責任ある立場を築くべきです。

 オバマ米政権で気候変動問題を担当するスターン特使は問題の深刻さをこう指摘しています。「最も懸念されるのは、(温暖化について)知れば知るほど、事態が緊急性を増していることです」。実感に裏付けられた言葉です。

 議論の出発点ははっきりしています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気温上昇を二度以内に抑えるには、先進国全体で二〇年に九〇年比で「25―40%削減」が必要だとしています。政府の検討はこれを踏まえたものでなければなりません。

 政府の議論には温暖化対策に伴うコストを下げたい産業界の意向が働いています。ところが、視野に入っていない問題もあります。

 対策の大前提である温暖化がもたらす被害を正面から検討していません。アジア開発銀行(ADB)が四月二十七日、温暖化にかかわる東南アジア経済についての報告を発表しました。「対策を早く取れば、その利益はコストを上回る」と指摘しています。

 米国や欧州諸国は、エネルギー政策の転換によって新たな雇用を生み出す方針を示しています。対策の直接コストにとらわれた日本政府の議論では、国際交渉をリードすることはできません。

野心的目標を

 私たちは、「30%削減」を目標に、自然エネルギー利用を大幅に普及するなどの手だてを求めてきました。政府が国民の意見を聞くパブリック・コメントで、環境NGOも政府案の「25%減」を超える「野心的目標」を求めています。

 首相官邸の中期目標検討委員会(座長=福井俊彦前日銀総裁)にNGO代表は招かれませんでした。政府も掲げる「低炭素社会」の実現は、経済社会のあり方を変えるものです。政府の姿勢は、この重大問題で国民的合意をつくる立場から外れているといわざるを得ません。



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