2009年4月6日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

五輪口実の東京外環道計画

福祉・医療削り 1メートル1億円


 都民の反対で凍結されていた関越道と東名高速を結ぶ東京都練馬区―世田谷区間十六キロの外環道(東京外郭環状道路)建設計画が、オリンピック招致や景気対策にかこつけて一気に進められようとしています。事業費は一兆六千億円。一メートル一億円の巨額の浪費に、巨大な環境破壊と生活破壊。「そんなお金があるなら暮らしや雇用、福祉や医療を充実してもらいたい」と、建設計画の根本を問う声が強まっています。(松橋隆司・ジャーナリスト)


30年以上も凍結

 この高速道路建設計画は、一九六六年に高架方式で都市計画決定されています。しかし、住民の強い反対運動で、超党派の国会議員数十人が支援、四年後に根本龍太郎建設相(当時)が凍結を宣言。以来、三十年以上凍結されてきたものです。

 これに対し、財界は一貫して建設推進を要求。一九九四年以来、JAPIC(日本プロジェクト産業協議会=巨大ゼネコン、大銀行、鉄鋼、セメント、自動車などの大企業が参加)が、地下化による建設を提案していました。

 そして、石原都知事が就任した年の一九九九年十月、建設予定地を視察し、計画推進の意欲を表明。知事からの要請を受けた扇国土交通相(当時)が二〇〇一年現地を視察したことで、建設計画が動き始めました。

 翌年六月から国と東京都、関係自治体は、住民参加のPI(パブリック・インボルブメント)という沿線協議会を開きました。「計画の構想段階から幅広く意見を聞く」というふれこみでした。

 計画地域の住民にとっては、大気汚染、立ち退き、農地や緑地の消失など、健康や生命、生活住環境の破壊に直結するだけに、疑問や意見が続出しました。

住民の意見無視

 沿線地域は、地下水脈が地表面にわきだす水源地帯。練馬区の八の釜、石神井、杉並区の善福寺、三鷹市の井の頭などの水脈と外環道のトンネルが直角にぶつかるため、これらの公園の池と森がどうなるのか、という心配を多くの住民が訴えています。

 行政側は「バイパスで地下水を通すから大丈夫」と説明します。しかし、住民側から「バイパスはすぐ目詰まりする」と例をあげて反論され、行政当局は「大丈夫」という根拠を示せないでいます。

 住民からは、反対意見や疑問の声が続出し、沿線の区長や市長からも疑問の説明を求める意見が出されました。

 しかし、国土交通省は、〇七年十二月、国幹会議(国土開発幹線自動車道建設会議)を開き、わずか五十分の審議で、外環道建設計画の練馬―世田谷間の基本計画を承認しました。しかも、住民の意見は議論の対象にもならず、資料さえ提出されていないことが、日本共産党の笠井亮衆院議員の追及で判明しました(衆院予算委員会〇八年二月)。

 笠井議員の質問は、「PI」会議が、「住民の意見を聞いた」というだけのアリバイづくりにほかならないことを浮き彫りにしました。

国会内で初集会

 国と都は、話し合いを打ち切って、「対応の方針」(素案)を一方的に発表。知事は「機は熟した」と建設強行の姿勢を示し、整備路線化を決めるための国幹会議を開くよう国に求めています。自公政権も、景気対策の名で一気に外環道建設の事業化を図る意向とされ、緊迫した局面を迎えています。

 国と都が主催した「地域課題検討会」に参加してきた沿線住民らは、超党派の国会議員に参加をよびかけ、参院議員会館で三月二十六日、初めての集会を開きました。国会議員は共産党の笠井議員のほか、民主や社民の議員・秘書約二十人が参加しました。

 住民らは、地域課題検討会について「懸念や不安は解消・軽減するどころか、不信感の強まる結果となり、沿線住民との合意形成にはほど遠い状態にある」と実情を紹介。着工につながる「外環道路の整備計画路線化を沿線住民として容認できない」と訴え、議員らに協力を求めました。

3千棟立ち退き

 もう一つの重大問題は、外環本線の地下トンネル地上部に「外環の2」(練馬・目白通り―三鷹・東八道路)といわれる都道を建設しようとしていることです。外環本体とともに日本共産党都議団が繰り返し追及し、問題点を明らかにしてきました。

 住宅密集地を抜けることから、三千棟もの立ち退きが予想され、事業費は推定六千億円にもなります。石原都知事は一九九九年の視察の際、この道路について、「マイナス要因が発生している道路の問題だから、これを地上につくるということは考えられない」と表明しています。

 共産党の松村友昭都議は一般質問(二月二十六日)で、「地下本線の事業化の見通しが立ってきたからといって、地上部道路建設を持ち出すのは、だまし討ち以外のなにものでもない」と批判し、計画の取り下げを求めています。

 武蔵野市在住の上田誠吉弁護士(82)は昨年、外環本線が地下方式になったのに伴い「外環の2」は廃止すべきだ、と都を相手取り東京地裁に提訴し、係争中です。訴状は、石原都知事の記者会見(〇六年四月)や国や都のパンフレットに、地上生活者に迷惑をかけないことや地表に影響を及ぼさないように地下方式にした、と説明していることにも言及しています。

自・民・公が促進

 だまし討ちをしてまでも石原都政が建設計画を強権的に進めることができるのは、都議会の自民、民主、公明三党で都議会外かく環状道路建設促進議員連盟を構成し、建設促進の発言を繰り返しているからです。

 石原都政と「オール与党」がオリンピックを口実に建設を推進している巨大道路は、それにとどまりません。別表のとおり、これらは総額九兆円にものぼります。

 共産党都議団の吉田信夫幹事長は〇六年三月の予算特別委員会で、「東京都の負担は底知れないものになる。いったいどこにそんな財政的な力があるといえるのか」と指摘。東京の中小企業対策予算は毎年連続して減らされ、最高時の半分以下になっていることを挙げ、計画中止を求めました。

 石原都政は就任当初から、「何がぜいたくかといえば福祉」と公言し、老人医療費助成、無料シルバーパス、老人福祉手当などの事業を廃止・改悪。革新都政以来の福祉・医療・教育の優れた施策をことごとく切り捨ててきました。

暮らしに税金を

 共産党の志位委員長は三月三十日の大田区の演説で、外環道の事業費が一メートル一億円になることを紹介し、その七百四十メートル分で削った高齢者福祉を復活できる、百三十メートル分で三十人学級を実現できる、と逆立ちした税金の使い道の転換を具体的に示し、「オリンピックを看板にした巨大道路より、都民の暮らしに税金を使え」と訴え、大きな共感の拍手に包まれました。


「外環道路計画の中止を求めます」と10万人署名をよびかけた

豊田詠史「市民による外環道路問題連絡会・三鷹」代表委員

 日本では、大型公共事業への住民参画の意見が「聞きおく」とされるだけで、反映される仕組みになっていません。それでも市民の意見を集約し、行政に、不確定要素の多いこの外環道計画に多くの市民が疑問と不安を抱いていることを、署名という形で訴えたいとするものです。署名はこれまでに、五千数百人分集まっています。

 この計画の最大理由でもある、東京二十三区の通過交通14%を迂回(うかい)させるため外環が必要とした数値も実際は、交通量で1・5%、走行量で4・2%にすぎません(国交省のデータにもとづき再検証の結果)。

 市民は「地域課題検討会・地域PI」において多岐にわたる問題点を指摘しましたが、反映されず、それではと、五区市七団体で報告会や院内集会を開催し、運動を着実に広げています。

 道路行政が過去何を残してきたか。農政の不在、過疎化、地域格差、自然環境の破壊…数え切れません。またぞろ経済の実質成長率とは関係ない、道路行政のばらまきを続けることは、第三次、第四次の過疎化と地方格差を生み、国やぶれて道路のみ、となりかねません。

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