2009年3月30日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
知ってほしい。「ディスレクシア」のこと――
読み書きに困難を抱える 南雲 明彦さん(24)
「誰にだってできないことはあるはず。受け入れ合える社会であってほしい」
「書けない、読めない―。なぜ?」。東京都内在住の南雲明彦さん(24)は「学習障害」のなかでも読み書きに困難を伴う「ディスレクシア」という障害を持っています。この障害のことをもっと知ってほしいと、全国各地で自らの体験などを話しています。(平井真帆)
「黒板の文字がノートに書き写せない」
気がついたのは小4のとき。文字がノートからはみ出したり、偏とつくりを逆さまに書いてしまう。書くだけで全神経をすり減らし、クタクタに疲れてしまいます。
「みんなそう?」、いや、「何かが違う」。学年が上がるにつれ、漢字練習がつらくなっていきました。
ノート提出を求められると「忘れました」と言って逃げました。通信簿には「忘れ物が多い」と書かれましたが、グチャグチャのノートを見られて怒られるよりましでした。
「板書をするのは無理」。あきらめた南雲さんは先生の目と口元に集中し、耳だけで勉強を理解する方法に切り替えました。
帰宅すると、母親に勉強してきたことを話すことで復習します。母親が簡単なメモを作ってくれました。
母親は、書くことや読むことを極端に嫌がる南雲さんに、決して強制しませんでした。
「○ページを読んでください」。そんなふうに指名されたときは、笑いを取ってごまかしました。
「ちょっと忘れ物が多いけど、明るくてひょうきん者」。そんな愛すべきキャラクターも、すべては障害を隠すための知恵でした。
「居場所」がない
南雲さんは主に耳から得る情報だけで高校受験を突破しました。
受験にあたってはまず、答案用紙のマスの中に文字を収める訓練を徹底的にしました。
しかし高校になると、今までのような努力も通用しなくなりました。授業のスピードが格段に早くなり、とても耳で聞くだけでは追いつけません。
教師は黒板に向かってすごい速さで文字を書いていきます。「先生の目や口が見えない。もうダメだ…」
2年になるとクラス全体が「受験モード」に。笑いでごまかせる雰囲気ではありません。
「集中力が足りないんだ」「なまけてばかりで、まじめにやってこなかったから」
自分を責める思いだけが次々と浮かんできます。周りからは「やればできる」と励まされるものの、希望の大学を探すためパンフレットを読むことさえできないのです。
「読み書きから逃れられない」というプレッシャーは、体の異常として表れました。
朝、学校へ行こうとするとガタガタと手が震え、どうきがします。体は疲れているのに眠れません。
「手が汚い」と思い込み、何十回も洗う。ささくれて血が出てもやめられません。カバンの中身を異常なほど確認しました。
精神科に2度、入院。「自分はおかしくなってしまった」。どこにも「居場所」がなく、通算2年間、自室に引きこもりました。
ネットで授業が受けられる通信制の学校に出会うまで4回、高校をかわりました。
21歳。人生の転機
高校卒業後も苦しみは続きました。
ホテルの仕事につきますが、上司の指示を聞き取れず、メモが取れません。「これを○番の机に運んで」と言われても机の番号が分かりません。ポツンと立ち尽くすしかありませんでした。
英会話スクールの営業の仕事でも、マニュアルの読み合わせにつまずきます。「口ばっかりで、やる気がない」と、どちらもひと月でクビになりました。
仕事をするのは無理。ボランティアなら、自分を生かせる居場所が見つかるのでは?
そう思った南雲さんは、20近くのボランティア団体やNPOをたずねて歩きました。
その中のひとつに、ディスレクシアの人を支援している団体がありました。持ち前の明るさで話しかけます。
―何をやっているんですか? 「読み書きに障害を持つ人の支援です」―読み書きの障害って? 「文字がにじんで見えたり、偏とつくりを間違えたり」
「それ、僕なんですけど」。21歳。人生の転機でした。
「学習障害」は、「視力の弱い人がメガネをかけるのと同じ」と南雲さん。弱い部分を補うものがあれば障害は障害でなくなる。南雲さんの場合は、パソコン上でなら文字が読めます。
「僕は読み書きができない。けれど、誰にだってできないことはあるはず。みんながもっと、できないことを受け入れ合える社会であってほしい」
かつての自分のように「居場所」のない若者のため、「自分ができることは何なのか」。問い続けています。
ディスレクシア 知的な遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するなどの能力のうち特定のことをすることができない障害が「学習障害」です。ディスレクシアはそのうち特に「読む、書く」ことに困難を伴います。文科省の調査では、こうした学習面での困難を抱える小・中学生は、約6%いるとされています。
お悩みHunter
“ママ友”と話合わず苦痛
Q 昨年、出産しました。出産時に病院で仲良くなった「ママ友達」からときどき、食事会などに誘われます。私は働いているのですが彼女たちは主婦が多く、時間の感覚も違うし、話題も合わず苦痛です。せっかく同じ日に同じ病院で子どもを生んだ「ママ友」なので大切にしたいとは思うのですが…。(29歳 東京都)
あせらなくても巡り合える
A 赤ちゃんはお母さんと一心同体、お母さんが苦痛を感じれば、きっと赤ちゃんも苦しいはず。
なによりも赤ちゃんが安心してゆったり豊かに成長できるよう環境をととのえてあげたいものですよね。
それには、お母さん自身がゆったり安心して日々の生活をおくることが、なによりも大切なのではないでしょうか。
働くお母さんは、育児に家事に仕事にと体力的にも精神的にもめいっぱいですよね。
それに加えママ友達にまで気をつかっていては、お母さんの体と心が悲鳴をあげるのではないかと心配になります。
どうか、あなたのストレスにならないお付き合いをしてくださいね。それが赤ちゃんの心の安心につながります。
あせらなくても、これから子どもが成長するにつれママ友達はたくさん増えてゆきます。
あなたと時間の感覚や話題が合い、子育てだけでなく人生を共に歩めるママ友達にもきっと巡り合えることでしょう。
私も3歳の息子をもつ働く母です。子どもの風邪が母に、母の風邪が子どもにうつり、寝込むときは常に一緒です。
最近、心許し分かり合えるママ友達にようやく出会えました。今年度から通う息子の幼稚園のママたちです。
子どもたちと共に私たちママたちの人生も希望あふれるものにしてゆきましょう。
舞台女優 有馬 理恵さん
「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。