2009年3月29日(日)「しんぶん赤旗」
専門職いない 調査が必要
群馬 高齢者施設火災から10日
住民の警告生かされず
入所者十人の死者を出した群馬県渋川市「静養ホームたまゆら」(NPO法人「彩経会」運営)の火災から十日。浮かび上がってきたのは、法の死角となる無届け施設の危険性と、高齢者福祉を支える施設とマンパワーの深刻な不足です。(柴田善太)
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「亡くなったKさんは怒っているだろうと思います」
「たまゆら」に入所していたKさん(85)を知る女性が重い口を開きました。おなかがすいたと言うKさんに、おにぎりをあげたことが何回もあったといいます。
「ついの住み家」
「ついの住み家」を宣伝文句にしていた「たまゆら」は、有料老人ホームの届け出を県に出していません。施設の基準を満たすためのコスト負担や、行政の監視を逃れるためではないかとみられます。
火元とみられる別館は通路の引き戸を夜間つっかえ棒で閉じていたこと、建築確認申請をせずに増改築をしていたことなどが判明しています。
入所者の救助活動をした「たまゆら」の二軒となりに住むGさん(59)は、「通路の両側に廃材が置いてあって、車いすの入所者を救い出すのに苦労した」と話します。
Gさんは、「『たまゆら』について 関係自治体への警告」と題した文書を二〇〇六年八月、群馬県、渋川市、「たまゆら」を入居先として紹介していた東京都墨田区に送りました。
かねがね入所者から聞いていた、「食事がひどい、外出禁止、介護専門職の不在」などの実態を訴え、改善を求めたものです。
市内の社会保険労務士の男性も〇八年と〇九年に三回、県、市、墨田区に電話で「たまゆら」の実態調査の必要性を訴えてきました。
県は、「有料老人ホームの届け出があれば老人福祉法に基づいた調査ができるが、無届けの場合、権限がないので難しい」。市は、「施設を管轄する県に(市内に)無届け施設がありそうか尋ねることはある」と説明しています。
約700人が待機中
入居者のほとんどが生活保護受給者でした。そのうち、十五人を「たまゆら」に入居させていた墨田区。住民票は墨田区に置いたままで、生活保護費は区が支給していました。
区内に特別養護老人ホームは六カ所、老人保健施設は四カ所ありますが、満杯状態。特養ホームは約七百人が入所待機中です。「近くの施設がいいに決まっているが、待ったなしの人を放っておくわけにいかない」と区の担当者。
区は入所者の対面調査を一人につき年一回、「たまゆら」を訪問して実施。「問題事例は見つかっていない」と言います。
今回の「たまゆら」火災事故は、低所得で介護サービスを必要とする高齢者が置かれている深刻な現状と、必要な介護サービスを保障する国や自治体の責任が後退している実態を浮き彫りにしました。
渋川市にある特養老人ホームの施設長は「困窮し、行き場のないお年寄りを入所させる施設が絶対的に足りない。悪いのは金(財政)の面からだけで福祉や介護を考えて、抑制してきた国の政治。ここを変えない限り問題は解決しない」ときっぱり語りました。
有料老人ホーム 老人福祉法にもとづく高齢者向けの施設。常時一人以上の老人を入所させて生活サービスを行う施設で、特別養護老人ホームや老人保健施設などの老人福祉施設でないもの。民間企業でも経営できますが、都道府県知事への届け出が必要です。
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