2009年3月29日(日)「しんぶん赤旗」
後期医療 導入1年 実態は
負担重く“病院行けない”
後期高齢者医療制度が始まって四月で一年。政府・与党は、「見直しを検討する」(麻生太郎首相)と言いながら、その方向すら示せません。「制度への理解は浸透しつつある」というのが厚労省の認識です。本当にそうか。導入一年の実態をみます。(政治部内政班)
急増する“孤独死”
昨年十二月、東京都杉並区で、高血圧と心臓病を患う一人暮らしの女性(79)が自宅アパートで亡くなっているのが、死後二週間ほどたって発見されました。発見者の看護師は「毎月きちんと診療に来ていたのに十一月は来なかった。不安がよぎり、訪問したのです。大家さんにカギを開けてもらうと、室内であおむけに倒れていて…」と語ります。
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主治医で、高齢者の在宅医療に力を入れている同区・天沼(あまぬま)診療所長の竹崎三立(みたて)医師は、「この方は一カ月ごとの薬の処方でした。二週間に一度だったら、もっと早く気付けたのでは」と悔やみます。
通院回数を減らすために「一カ月分」「五十日分」とまとめて薬を出すことを希望する患者が増えていることに、竹崎医師は心配を募らせています。
東京二十三区内での一人暮らしの高齢者の“孤独死”は、五年ほど前から急増。二〇〇七年には千七百九十八人と、二〇〇〇年の倍以上に上ります(東京都監察医務院の統計から)。東京の区部だけで毎日四―五人の後期高齢者が、誰にもみとられずに亡くなっている勘定です。
中央社会保障推進協議会の山田稔事務局長は、「ただでさえ低年金で生活が大変なところに、強制的な保険料の天引きです。年金以外に収入はない。大変な不安です。保険料を無理して払い、保険証はあるが、お金がなくて病院に行けない。そんな人が大勢います」と告発します。
全日本民主医療機関連合会(民医連)の昨年九月の調査では、後期高齢者の外来通院日数が前年同期比で8・47%ものマイナスでした。〇二年に高齢者の窓口負担が定額制から一割負担へと改悪された際の受診抑制(前年同期比4・4%減)を超えています。
小手先手直しで矛盾
舛添要一厚労相がつくった「高齢者医療制度に関する検討会」に招かれた全国老人クラブ連合会の役員は、「制度への理解は進んできた」とする厚労省の見方に、「実態と違うと思う。今は軽減措置があるが、将来的に保険料は高くなるのだし」と指摘しました。
後期高齢者医療の保険料は二年ごとに改定されます。七十五歳以上の人口や高齢者の医療費が増えると自動的に値上げされ、際限なく増えます。
年金からの保険料天引きへの反発を受けて、政府・与党は、四月から、希望者は口座振替を選べるようにしました。一方で、保険料負担が重いため、滞納が増える恐れが指摘されています。滞納の増加は制度の基盤を揺るがす上に、七十五歳以上の高齢者からの保険証取り上げという深刻な社会問題を引き起こします。小手先の手直しが新たな矛盾を生んでいます。
制度の廃止しかない
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民医連の湯浅健夫事務局次長は「軽減措置も、いずれ期限切れを迎えます。総選挙が終われば負担増が一気に来る。制度そのものをなくさない限り、矛盾はなくならない」と語ります。
中央社保協の山田事務局長は「社会保障は削減のターゲットでした。でも、ここを拡充しなければ内需拡大などありえないことは、いまや誰の目にも明らかです。福祉にお金を回し、高齢者を含め日本の医療のあり方を再構築すべきです」と強調します。
この一年、党派を超えて高まった、後期高齢者医療制度廃止を求める声。誰もが年齢や所得によって差別されることなく、安心して受けられる医療の確立を目指し、たたかいは広がっています。
そっぽ向かれた「診療料」
後期高齢者医療の“目玉”として導入された「後期高齢者診療料」ですが、利用を届け出ているのは、全国の診療所の一割弱の約九千五百です。そのうち、実際に患者の同意を得て診療料を算定した機関は10%程度とみられます。(中央社会保険医療協議会調べ、昨年十一月)
同「診療料」は、高齢者を診療する医師を一人の主治医に限定し、報酬を月額六千円の包括払いとする制度です。六千円を超えた検査や処置をすると医療機関の損失となります。高齢者が受けられる医療を制限し、医療費を抑制する狙いです。
しかし一年たっても算定は進まず、「後期高齢者医療の『柱』揺らぐ」(「産経」十九日付)と書かれています。
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