2009年3月24日(火)「しんぶん赤旗」
主張
原爆症認定集団訴訟
切り捨て行政の根本的転換を
広島・長崎の被爆者の疾病や障害を原爆症と認めることを求める集団訴訟で、このほど東京高裁と広島地裁で重要な判決があいつぎました。集団訴訟十五連敗となった国・厚労省は、改めて認定行政の根本的転換を迫られています。
糾弾された厚労相の責任
十八日の広島地裁判決は、一部の原告についてですが、認定却下は違法という判断にとどまらず、初めて国家賠償を認めました。却下の判断が誤っていただけでなく、厚労相が「職務上の注意義務を尽くさず漫然と申請を却下」したことが、国家補償法上も違法であると判断したのです。
集団訴訟以前の二〇〇〇年の最高裁判決は、厚労省が「DS86」という放射線量推定方式によって放射線の影響を否定し、認定を却下したことは違法と断じました。ところが認定方針の見直しを迫られた厚労省は、「DS86」の絶対化に加え、発症確率を機械的にあてはめる方針を採用、いっそうの切り捨て認定を進めたのです。
広島地裁判決は、最高裁判決にもかかわらず誤った却下を続けたことについて、厚労相が自ら適正な判断をする努力を怠ったと厳しく指摘しました。被爆から六十年もへて、病気に苦しむ身で集団訴訟に立ち上がらざるをえなかった根本要因にメスを入れ、責任を果たせと命じたのです。
集団訴訟で敗訴をかさねた国は、昨年四月から「新しい審査の方針」を採用しました。それまで放射線の影響はないと却下されてきた被爆者も、被爆状況によってはがんなど五疾病について認定されるようになりました。以前は多くても二百人程度だった年間の新規認定者が、この一年で二千五百人を超え、前進は明らかです。
しかし今回の二つの判決をふくむ昨年四月以後の三高裁六地裁の判決のすべてが、五疾病以外の肝機能障害などさまざまな疾病の原告についても認定すべきだとしました。新方針がなお被爆の実態に見合っていないことは明白です。
とりわけ十二日の東京高裁判決は、新方針で五疾病以外は総合的に判断すべきとされたのに、ほとんど機能していないもとで、認定のやり方についても、明快な注文をつけました。
放射線の影響を部分的にしか反映していない「DS86」を認定却下の根拠にしてはならない。放射線はごく少量でも障害をもたらすことは明らかであり、がん以外も発症や悪化に影響を与えていることが推定でき厚労相がそれを否定できなければ認定すべきだ―。
国・厚労省は、新方針でも認定されない原告について、敗訴しても控訴し争い続けています。以前の認定方針は正しかった、原告たちは放射線の影響を受けておらず却下は間違っていなかった、新方針は政策的な判断によるものだ、最高裁判決は誤っていたとまで主張し続けています。
早期の全面的な解決を
しかし今回の二つの判決は新方針のもとでも切り捨て姿勢を続けることを厳しく批判したのです。
国・厚労省は今度こそ、被爆の実態、被爆者の苦難に真剣に向き合い、切り捨て行政を深く反省し、根本的転換をはかるべきです。次の判決を待つまでもなく、二判決の上告、控訴を断念させ、すみやかな訴訟の解決、認定方針の再見直しを迫ろうではありませんか。
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