2009年3月23日(月)「しんぶん赤旗」
「海賊対処」派兵新法案
「殺し殺される」危険
「武器の使用が認められる範囲では、(人の死傷という)結果も正当化される。何度注意し、警告射撃をしても、近づいてきたら威嚇射撃し、それでも取り付いてきたら船体射撃する。さらに船に上ってきたら狙って撃つ。撃ち殺してもしょうがない」
自民党国防部会幹部は、政府が国会に提出した「海賊対処」派兵新法案について、こう言いきります。
さらに同幹部は「最初はエンジンを狙う。船体射撃の結果、不幸にして海賊に当たって死なせたとしても、今度の法律では罪にはならない。神様じゃあるまいし、そういう解釈を含まなかったら隊員を送り出せない」とも強調しました。
派兵新法案では、海賊が「停止の措置に従わず、なお船舶を航行させて当該海賊行為を継続しようとする場合」「合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」(六条)と規定しました。自衛隊が「海賊対処」を名目に任務遂行のための武器使用を行い、人を撃ち殺すことも正面から認める―。ここにこの法案の最大の問題点の一つがあります。
武器使用拡大
陸上自衛隊のイラク派兵先遣隊長・復興業務支援隊初代隊長だった佐藤正久議員(自民党)は、「今回、正当防衛・緊急避難を超えて、停船のための任務遂行の武器使用を法律に記載した。多分初めてのケースだと思う」(十九日、参院予算委員会)と指摘しました。これまで、PKO法(一九九二年)、周辺事態法(九九年)、テロ特措法(二〇〇一年)、イラク特措法(〇三年)など、自衛隊の海外派兵を認めた法律では「武器の使用」が、正当防衛・身体防護、緊急避難の場合に限定されてきました。任務遂行のための武器使用は、自衛隊の部隊・組織としての武器使用にほかならず、「海外での武力行使」につながるという批判を懸念してきたからです。今回の法案では「海賊対処」を名目に、そこを一気に正面突破しようというのです。
戦後史を覆す
母船から高速艇を繰り出し、機関銃や米国の軍用ヘリコプターをも撃墜する威力を持つロケット弾などで重装備する「ソマリア海賊」と対峙(たいじ)することになれば、致死的な銃撃戦になる可能性は小さくありません。法案は、その中で「殺し殺される」事態が発生することを想定しています。
第二次世界大戦で「政府の行為により」二千万人以上を殺した日本は、憲法九条のもとで、戦後六十年以上にわたって一人も殺さない「歴史」をつくってきました。今度の法案は、この憲法のもとでの誇るべき日本の歴史を大転換させる重大な危険をもつものです。
「日米同盟強化の要請に基づき海外派兵を拡大してきた日本にとって、残された最大の課題の一つは集団的自衛権の行使の問題だ」
米国のオバマ新政権との関係を展望して、外務省の元高官はこうのべます。
同盟国に対する攻撃を日本への攻撃と見なして反撃する集団的自衛権は、海外で米軍と肩を並べて武力行使するためのものです。「海賊対処」の名目での武器使用の拡大は、集団的自衛権行使への突破口にもなります。(中祖寅一)
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