2009年3月20日(金)「しんぶん赤旗」
ゼネコンと政界 続く癒着
「西松マネー」 全容解明を
準大手ゼネコン「西松建設」の違法献金事件は、国民の税金の一部である公共事業費が還流し、自民党と民主党の政治家にわたっていたという点でも、十数年前に大問題になったゼネコンと政治家との癒着が、いまだに続いているという点でも、あいまいな解決では済まされません。ことは民主党の小沢一郎代表の公設秘書の問題にとどまりません。(「政治とカネ」取材班)
構図
政界に4億8000万円
小沢氏突出 20人近くに
民主党の小沢代表や、自民党の二階俊博経済産業相らの政治家に、長年にわたって多額のカネをばらまいていたのは、西松建設のダミー政治団体「新政治問題研究会」(新政研、一九九五年設立)と「未来産業研究会」(未来研、九九年設立)です。
ともに、西松建設の土木営業本部営業管理部長OBが代表を務め、二〇〇六年に解散しています。
自・民議員へ
両団体の政治資金収支報告書によると、両団体は解散するまでに、のべ約七千七百人から総額約五億一千五百万円の「会費」を集めたと記載しています。
ところが、これは、社員やその家族が「会費」を払い、その会費分を賞与に上乗せしていたというもので、事実上、西松建設の企業献金だったことが東京地検特捜部の調べなどで、明らかになっています。(図参照)
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新政研が設立された九五年というのは、ゼネコン汚職など「政治とカネ」をめぐる問題への批判の高まりを受け、政治資金規正法が「改正」された年です。企業・団体献金の公開基準は、年間百万円超から五万円超になりました。
企業名を隠すために、ダミー政治団体をつくった西松建設。二つのダミー政治団体は、小沢氏はじめ、二十人近い政治家や自民党の派閥、地方自治体首長などに、約四億七千八百万円をばらまきました。(表参照)
このなかで、受け取った総額が一億二千九百万円と、突出しているのは、小沢氏です。
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“抜け道”使う
その内訳は―。
小沢氏が党首を務めた新進党の政治資金団体「改革国民会議」(のち自由党の政治資金団体)は、九五年に、新政研から五百万円の献金を受け取ったのを皮切りに二〇〇二年までに、未来研とあわせて計六千八百万円を受け取っています。
〇〇年に政治資金規正法が「改正」され、議員が支部長を務める政党支部への企業献金はできるという“抜け道”が残されました。小沢氏が支部長の「自由党岩手県第4区総支部」(〇二年まで)、「民主党岩手県第4区総支部」(〇三年―〇六年)は、二つのダミー政治団体から計二千九百万円もらっています。
小沢氏の資金管理団体「陸山会」は、〇三年―〇六年に、計二千百万円。これが、西松建設からの寄付と認識しながら、政治団体からの献金と偽って政治資金収支報告書に記載した虚偽記載として、小沢氏の公設秘書で陸山会の会計責任者が逮捕されました。
小沢氏が最高顧問の民主党岩手県連も〇三年―〇六年に計千百万円。
九五年から〇六年まで、小沢氏側に途切れなく、二つのダミー政治団体から資金提供があったことになります。
一方、自民党の二階経産相の場合も、資金管理団体「新政経研究会」が九五年に設立されたばかりの新政研から百八十万円受け取るなど、西松建設とは古い付き合い。二階氏が代表の派閥の政治団体「新しい波」が、八百三十八万円分のパーティー券購入、二階氏関連の政治団体「関西新風会」も三十万円分のパーティー券購入など、二階氏側が受け取った西松のダミー政治団体からのカネは千六百四十八万円に上ります。
規正法“穴”だらけ 大企業ほど堂々と政治資金規正法は金権腐敗事件のたびに「法改正」を重ねてきました。しかし、そのたびに“抜け穴”をつくってきたという歴史があります。 他人名義での献金は一九七五年から禁止されていました。しかし、今回の事件では、西松社員が個人献金を装ったり、社員の懇親会をダミー政治団体の資金パーティーに偽装した資金ねん出など、偽装工作のオンパレードといえるものです。 さらに現行の規正法自体、資金集めパーティーでパーティー券購入額が二十万円以下は政治資金収支報告書に記載する必要がないなど、抜け穴だらけ。 たとえば二〇〇七年に麻生太郎首相の資金管理団体が開いたパーティー券の購入者が判明しているのはわずか8・3%。献金者をかくしたまま、多額の政治資金を手にすることができます。 また政治家が支部長となった政党支部では企業・団体献金を受け取ることが可能で、資金管理団体への献金禁止を有名無実にしています。 企業からの献金は資本金の大きさによって最大一億円まで可能で、大企業ほど堂々と献金できる仕組みになっています。 |
原点
公共事業に“天の声”
追及し続けた共産党
事件の糸をたどっていくと「疑惑の原点」ともいえる小沢氏とゼネコン業界の根深い関係が浮かんできました。
「桐松クラブ」
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本紙は一九九三年七月、小沢氏の地元、岩手県に営業所を置くゼネコン十九社でつくる小沢後援会の存在を明るみに出しました。「桐松クラブ」です。
会員名簿には、「衆院議員 小沢一郎後援会 窓口担当秘書 高橋嘉信」とありました。
注目すべきは、その役員です。会長に鹿島、副会長に清水建設、幹事長に大成建設というスーパーゼネコンの盛岡営業所長が名前を連ねていました。「一次会員」には、大林組、奥村組などと肩を並べて西松建設盛岡営業所長が記載されています。
当時、本紙の取材に、あるゼネコン盛岡営業所長は、「カネは親睦(しんぼく)会の範囲で出している。選挙事務所に人をはりつけているゼネコンもある」と小沢氏の選挙をゼネコンぐるみで支援していたことを証言していました。
「建設族」議員
小沢氏は、自民党を離れ新生党代表幹事としてはじめての衆院選でした。「野党」にもかかわらず名だたるゼネコンが応援したわけは…。
小沢氏はロッキード事件で刑事訴追された田中角栄元首相(死去で公訴棄却)の「秘蔵っ子」といわれました。その後も旧田中派を実質的に継承した金丸信元自民党副総裁、竹下登元首相(いずれも故人)らのもと、「建設族」議員として実力をつけました。
九三年、金丸脱税事件で、小沢氏は、新生党をつくり自民党から「脱走」しました。しかし、その直前まで、自民党建設族議員でつくる「国土建設研究会」の会長でした。
同研究会は表向きは「勉強会」。その実体は、ゼネコン向けの公共事業の配分に大きな力を持つ組織でした。
自民党を離れたとはいえ、小沢氏が公共事業に絶大な影響力を持ちつづけていた証拠が「桐松クラブ」だったのです。しかも、九三年七月の総選挙後、「非自民」連立政権実力者となり、建設族のドンの座に座り続けました。
93年の質問で
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当時、日本共産党国会議員団は、小沢氏をめぐるゼネコン丸抱え選挙、そしてゼネコンが受注する公共事業の配分を決める「天の声」疑惑を追及しました。
たとえば、吉岡吉典議員(故人)は、同年十月十二日の参院予算委員会で、独自の調査で作成した「岩手県における『天の声』とその伝達ルート」を示し、大手ゼネコン、県内建設業者や県庁の幹部まで巻き込んで、小沢氏が「利権大国」ともいうべき公共事業支配の仕組みを築いていることを明らかにしました。
これは、岩手県内の公共事業のうち、国レベルのものは小沢氏本人が直接、地方レベルのものは小沢氏の地元秘書が、県庁指名委員会の選定情報を県上層部を通じて入手し、県庁ОBで小沢氏の腹心の人物と相談のうえ、指名委員会に業者を指名するというものでした。
吉岡氏が、このとき、本体工事の入札はまだ数年先なのに、すでに受注者として大手ゼネコンの名前がとりざたされていることを指摘した同県胆沢(いさわ)町(現奥州市)の胆沢ダムの関連工事を、いま、西松建設が受注、工事を進めています。
また、吉井英勝議員は、同月十九日の衆院政治改革特別委員会で、大手ゼネコンで構成される選対名簿や、「選挙応援をしないと工事がとれない」という地元業者の声も示しながら、小沢氏のゼネコン総ぐるみ選挙を生々しく告発しました。
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地下に潜った献金 十数年ぶり地表に九三年、国会での日本共産党の追及や弁護士グループによる小沢氏のヤミ献金疑惑への告発、金丸脱税事件に続き起きたゼネコン汚職で、世間のゼネコンと政治家の関係にたいする目はきびしくなりました。 九三年、九四年の小沢氏の資金管理団体「陸山会」の政治資金収支報告書には億単位で企業献金を集めた記載はありますが、個別企業の名前はありません。百万円以下は企業名の公表義務がなかったためです。 政治資金規正法がかわり、五万円を超える献金が公表された九五年の陸山会の報告書には、いっせいに企業名が掲載されました。「清水建設五十万円」、「大林組五十万円」などのゼネコン数社も登場しました。 しかし、そこには「鹿島」や「西松建設」の名前はありませんでした。 桐松クラブ会長企業の鹿島からは、小沢氏側に報告書に記載のないヤミ献金がありました。鹿島幹部の証言で盆暮れに五百万円ずつ提供されていたことが発覚したのです。 西松建設は、九五年にダミー政治団体を設立。巧妙な小沢氏側への資金提供をはじめます。世間の目をごまかすため、一部のゼネコン献金が「地下」に潜伏しはじめたのです。 その「地下水脈」が十数年かけ地表に現れたのが、今回の西松違法献金事件です。 |
害悪
税金還流 国民が被害
受注企業献金はワイロ
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西松建設は、約一千億円(二〇〇七年度)の公共工事を受注していますが、その一方、ダミー政治団体経由で十年間余に自民、民主などの政治家に四億七千八百万円を献金していました。巨額の献金が同社の公共工事受注にどう影響をしたのかが注目を集めています。
集金システム
公共事業受注企業からの献金をめぐっては、〇三年に自民党長崎県連元幹事長らが、政治資金規正法違反(虚偽記載)などに問われました。
知事選でゼネコン各社から集めた選挙資金を不正に処理していた同事件の判決では、「県発注の公共工事に対する自民党県連の影響力を背景とする集金システム」と断罪されました。
今回の事件でも西松建設側が、公共工事受注を狙って献金をしたとみられており、企業献金の「ワイロ」的な性格が浮かび上がっています。
とくに多額の資金を渡した民主党の小沢一郎代表への献金の意図について、西松建設幹部は、「公共工事受注の戦略のために献金した」と供述しているといいます。
政治資金規正法違反だけでなく、事態の進展によっては、政治家や秘書が口利きの見返りに報酬を得ることを禁じた「斡旋(あっせん)収賄罪」や「斡旋利得罪」に抵触する可能性もあります。
大きい影響力
公共工事受注のために政治家や官僚への工作を担当した経験のあるゼネコン元幹部は、こう打ち明けます。
「公共事業は行政機構がおこなうものだから、政治家の影響力は大きい。だからこそゼネコンは、政治家にカネも出すし、選挙も手伝う。結局、裏金は当然だが表の献金も『ワイロ』のようなものだ」
国民の税金を使った公共事業が企業からの献金によってゆがめられ、その結果、事業費が不当にはねあがる―。税金還流によって被害を受けるのは国民です。
公共事業受注企業はもちろんのこと、すべての企業・団体からの献金を禁止することは、「政治とカネ」の腐敗を正す根本的な課題です。
裏金づくり 巧妙な手口ゼネコンなどが政界対策や受注工作につかう資金は、あの手この手で巧妙に捻出(ねんしゅつ)されています。 西松建設のようにダミー(隠れみの)政治団体を使って献金を偽装するのもそのひとつ。 西松は、「新政治問題研究会」「未来産業研究会」の二つのダミー団体を設立。ダミー団体の会費を社員から徴収し、あとで賞与に上乗せするなどの方法で返還していました。 公共工事などの現場で裏金を捻出する方法もあります。下請け業者に協力させ、当初の工事計画に、追加の手直し工事が生じたかのように見せかけるなどのやり方です。 ゼネコン関係者は、「こうして作られる裏金は、百―二百万円だが、各現場に作らせれば数千万円はすぐできる。なじみの政治家には盆暮れにもち代や氷代として渡していた」と話しています。 |
用語解説
ゼネコン
元請負者として各種の土木・建築工事を一式で発注者から直接請負い、工事全体のとりまとめを行う総合建設業者。英語の「General Contractor」(ゼネラル・コントラクター)の略。完成工事高の大きい鹿島建設、清水建設、大成建設、大林組、竹中工務店の5社はスーパーゼネコンと呼ばれます。西松建設、戸田建設などは、単独売上高で2500億円以上のグループで準大手ゼネコンと呼ばれています。
資金管理団体
政治家が政治資金の拠出を受けやすいように、一つだけ持つことができます。
現行の政治資金規正法では、企業や団体から献金を受けとることができるのは政党本部や支部、政党が指定する政治資金団体に限定されています。資金管理団体への企業・団体献金は2000年から禁止されています。個人献金は150万円まで可能です。資金の出し入れがしやすいため、受け取り可能な政党支部からの献金の還流先となる事例が後を絶ちません。
使途秘匿金
通常、企業が支出をした場合、帳簿書類などで支出の内容や支払先を記載することが求められます。それにもかかわらず、企業が支出の相手や内容を明らかにしないものを指します。政治家へのヤミ献金や取引先の裏リベートなどの原資となっています。こうした使途秘匿金の支出には、通常の法人税のほかに、40%の特別税額が課されます。使途秘匿金課税は、ゼネコン汚職事件を受けて1994年に設けられました。
政治資金収支報告書
政治資金規正法により政治団体に作成・提出が義務づけられている報告書。毎年3月31日までに、前年の1月1日から12月31日までの収入、支出について、総務大臣、または都道府県選挙管理委員会に提出しなければなりません。同時に、12月31日現在で保有する土地、建物や預貯金の残高などの資産等についても届け出ます。
一定額を超える支出をしたり、寄付を受けた場合は、その氏名や名称も記載しなければなりません。不記載や虚偽の記載をした場合は、5年以下の禁固、100万円以下の罰金が科せられます。