2009年3月16日(月)「しんぶん赤旗」
主張
自衛艦出港
海外派兵の強化を許さない
政府は十三日の閣議で、海賊対策を名目に、現行法による自衛艦のソマリア沖派遣と武器の積極的使用を認める「海賊対処」派兵法案を決定しました。同日発令された海上警備行動にもとづき十四日に出港した自衛艦二隻は、来月上旬にも日本関係船舶の保護活動を始め、新法が成立すれば新法にもとづく活動に移行します。
もともと海賊という犯罪行為は警察行動で対応すべきものです。国民の批判を無視して、“派兵先にありき”で自衛隊を強引に派遣するのは、海賊対策にかこつけてアメリカが求める海外派兵を強化・拡大するためです。
現行法の派兵も危険
政府は、まず自衛隊法八二条の海上警備行動を根拠にソマリア沖派兵を強行しました。しかしこれは法律をねじまげるものです。
自衛隊は「外部から来る武力攻撃に対して対処」することが「眼目」(一九五四年四月二十三日衆院地方行政委員会、木村篤太郎保安庁長官=当時)です。憲法に違反することを覆い隠すために政府が編み出した論理です。
従って八二条も、「我が国の公共の秩序の維持という目的のために発令される」(二〇〇八年十一月二十七日衆院安保委員会、徳地秀士防衛省運用企画局長)という答弁が示すように、日本近海に限定されています。世界の果てまで広げることに道理はありません。
武器使用も問題です。海上警備行動のさいに自衛隊は、警察官職務執行法七条が準用され、犯人逮捕、逃走の防止、自己・他人の防護、公務執行の抵抗抑止のために武器が使えます。日本籍船や日本の積み荷を輸送する船舶などを海賊から守るという名目で、自衛隊が他国民を殺傷することにもなりかねません。警察権をもたない自衛隊が戦争のために装備した武器を使って、海賊だからといって殺傷するのは許されないことです。
しかもこれから国会で審議される「海賊対処」派兵法案は、現行法では許されない他国の船舶の保護と武器の積極的使用を認める憲法違反の悪法です。
新法は、船舶や積み荷の「強取」などを目的として船舶に「著しく接近」「つきまとい」「進行を妨げる」海賊船に対して、発砲することを認めています。インド海軍がタイ漁船の母船を間違って砲撃し撃沈させたような事態を、自衛艦がおこさない保障はありません。
政府が武器使用を正当化するために説明してきた「いわば自己保存のための自然的権利」とする見解さえ無視した新法は、ためらわず発砲することを認めるものです。許すわけにはいきません。
いかなる理由であれ他国民を殺傷する道を進むことは、戦争を放棄し、軍隊を認めない日本国憲法を踏みにじることになります。
派兵法案の廃案を
ソマリア沖派兵は、昨年十月十七日の国会質問で民主党の議員が主導し、麻生首相がとびついた、政府・民主党合作の産物です。日米軍事同盟強化で民主党と政府が同じ立場に立っていることを示すものです。アメリカ政府の歓心を買おうとしているのも同じです。
憲法改悪や海外派兵恒久法の制定をめざす危険なくわだてをやめさせるためにも、ソマリア沖での自衛隊の軍事活動に反対し、「海賊対処」派兵法案を廃案に追い込むことが重要です。
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