2009年3月2日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

住民が声 市動かす

県内初の建物高さ規制

高層マンション見直しへ

千葉・船橋


 良好な住環境を守るため、建物の高さ規制をする自治体が増えています。この背景には住民の声、運動の広がりがあります。千葉県で初めて2月10日、住居地で建物の高さ限度を20メートル、31メートルにした船橋市からリポートします。


地図

 船橋市は、低層の住居地に高層マンションが増えています。住民から「日影、圧迫感などの被害を受ける高い建物を建てさせるな」との市議会への陳情が相次いでいます(別項(1)参照)。陳情は市議会建設委員会で審査し、ほとんど採択されています。市の指導は「適法建築」とする壁に阻まれています。

■日影と圧迫感と

別項(1)

 習志野台八丁目まちづくり住民協議会が二〇〇五年十月、九階建て(高さ二十七メートル余、八十七戸)、隣地境界から九十センチ離すというマンション計画の見直し指導を市へ要請しました。翌年六月、協議会の住民二十六人が千葉地裁へ「隣地境界から七メートル以内、六階以上建てないように」の申し立てもしました。住民は同年十二月の市議会へ、高さ規制を含む拘束力のある指導を求める陳情をしました。陳情は全会一致で採択されました。

 陳情者の石川トシ子代表は「私たちの町はそばに自衛隊習志野演習場があり、落下傘降下などの訓練機が低空飛行する直下です。高い建物ができたら不安で、日影、圧迫感などの被害を受けます。低い建物にしてほしいとお願いしたのですが、聞き入れてもらえませんでした。それで、規制づくりを市に要望しました」と語ります。

 地裁の和解勧告で〇七年三月、住民はマンション建築業者に高さ八階(高さ約二十四メートル、八十五戸)、隣地境界から百三十五センチ離しての建築を認めました。規制がないからでした。

 市は同月、高さ二十メートル、三十一メートル(別項(2)参照)の「都市計画高度地区変更原案」を発表し、同年度中に実施するとしました。「土地所有者に不利」の意見が出たこともあって、作業は進みませんでした。規制案を超えるマンション建築の「駆け込み」がありました。

 〇八年秋、市内の高層マンション建築反対運動住民団体・有志が高さ規制を実現する会を結成し、シンポジウム開催や市への要請をしました。この活動に首都圏の住環境住民団体・有志が支援をしました。市などの動きが変化しました。

 ことし二月二日に市都市計画審議会で高さ規制を全会一致で決定し、県知事の同意を得て同十日に実施しました。

■まだ最低レベル

 高さ規制を実現する会の城間由岐子代表は「住民の犠牲のうえにやっとできた高さ規制は最低レベルです。当初予定どおり規制を実施していたら、駆け込みによる高い建物で苦しむ住民をつくらなくてすんだのに…」と話しています。

 日本共産党市議団は高さ規制に賛成し、この規制の問題点を指摘しています。鉄道主要駅周辺を当初案二十メートルから三十一メートルに緩和したり、地区計画での決定を優先するため規制より高いものを許すことになります(別項(2)参照)。

 船橋市の高さ規制への運動を学び、住環境を守る運動を県内に広げるため二月十四日、県内の住環境団体・住民らが「景観と住環境を考えるネット・ワーク千葉」をつくりました。住環境運動は新たな一歩を踏み出しました。


景観と住環境を考える全国ネット代表・弁護士 日置雅晴さん

より良い街づくりへの一歩

 船橋市が千葉県で初めて高度地区を指定するに至りましたが、その経過は市民が自らの住環境を守るためにいかに声を上げる必要性があるかを、さらには市民が声を上げれば行政も動かざるを得なくなることがあるということを示しています。

 日本では土地に関する規制を強化することに対しては、土地を経済的価値としてしかとらえていない層からの反発が強いため、行政も及び腰のところが多いです。船橋でも行政の提案は頓挫しかかっていました。

 しかし、そもそも日本の都市計画が当初からかなり緩い規制にとどまってきたことから、平穏な暮らしをおくっている多くの市民にとっては住環境を適切に維持していける範囲に開発をとどめる規制強化が不可欠な地域がほとんどです。このような規制の強化は冷静に考えれば、むしろそこに住む人にとっては「住むに値する資産」の価値を守ることにつながるのですが、建築紛争でも起きない限りなかなか意識されてこなかったのです。

 そのような問題を、多数の地域住民が相互に連絡を取り合い、冷静に必要性を強く訴え、その力の結集が及び腰であった行政を動かしたのが船橋です。地域に根ざした市民のネットワークが政治を動かす、民主主義にとって当たり前のようでなかなかできなかったことが一つ変わったのです。

 これに力を得た船橋の市民たちが、今後さらによりよいまちづくりに動くことを期待したい。

別項(2)


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