2009年2月27日(金)「しんぶん赤旗」
丸ノ内線 ワンマン化
ラッシュ時1分50秒間隔/最高混雑率159%/1日平均110万人利用/超過密
3月にも実施 「安全に不安」
東京地下鉄
民営化された東京メトロが、地下鉄副都心線に続いて超過密路線の丸ノ内線で三月にも全線をワンマン運転にすることが分かりました。利用者にもまだ知らされておらず、労組と協議中ですが実車訓練を行っています。安全やサービスはどうなるのでしょうか。(深山直人)
丸ノ内線は池袋、大手町、東京、銀座、霞ケ関、新宿など繁華街・官庁ビジネス街を結び、ラッシュ時は一分五十秒間隔で運転。最高混雑率159%、一日平均百十万人を運ぶ首都の大動脈です。
これまでワンマン運転は営業収入が低く、混雑率も低い路線が中心でしたが、都心の過密路線のワンマン化は初めて。会社は、開閉式の可動さくを設置したことなどから「ツーマン(運転士と車掌)運転と同等以上の安全を確保できる」と労組に説明しています。
しかし、ワンマン化によって、安全運行を支えてきた車掌ら二百人、駅員二十人をそれぞれ削減。代わりに運転士はドア開閉、乗降客監視、車内放送など車掌業務が強いられることになります。自動運転装置を導入しますが操作がなくなるわけではなく、運転士には相当な負担増です。
「いまでも人員不足で年休もろくにとれない。過密ダイヤで疲れもひどいのにこれ以上負担を増やすなんてとんでもない。ホームに駅員がほとんどいないなかで車掌もいなくなれば安全確保には不安だ」との声が運転士から上がっています。
しかも運転士らは「ドアは運転台のモニターを見て開閉しますが、可動さくが死角となって見えないところがあるし、可動さくのセンサーも床上五十センチ以上は感知しない。安全確認に不安が残る」と指摘します。
丸ノ内線 ワンマン化計画
事故・急病…対応困難に
国の基準なく事業者任せ
実際、ワンマン運転されている丸ノ内線の支線で昨年、乗客がドアに挟まれたまま発車し、大けがをする人身事故が起きています。
副都心線でも、乗客が可動さくと電車のドアの間にいるとき、さくもドアも閉まる事件が発生。そのまま列車が発車していれば人身事故につながりかねないところでした。利用者からは「これで安全なのか疑問に思う」といった声が出ています。
会社は「モニターですべてを確認することは不可能」と認めながら、「システム上安全性に問題はないと判断している」というだけ。「事故が出たら責任はどうなるのか」との質問にも「明らかにモニターで判別できる場合をのぞき責任はない」と答えています。
乗務員らは「責任さえ問われなければ、乗客がはさまれても事故が起きて構わないといわんばかりだ。安全輸送の責任を投げ捨てるのか」と指摘します。
車内トラブルや急病人、故障や事故が起きれば、駅や指令所との連絡、乗客への案内などを迅速にしなければならず、ときには避難も必要になります。
会社は近隣駅や住民の応援を得るとしていますが、労働者は「運転士一人で迅速な対応などできない。応援を待っていたら間に合わない。そもそも人員不足なのに実効性があるのか」と話します。
丸ノ内線で昨年一月に起きた停電事故では乗客の誘導終了まで二時間もかかりました。
二〇〇三年、韓国で起きた地下鉄列車火災事故は、ワンマン運転などが原因で対応が遅れ、二百人もの犠牲者を出しました。韓国労組の全国組織、民主労総と韓国労総はともにワンマン運転の見直しを求めています。
ダイヤ乱れ多発
さらに、丸ノ内線は今でも連日十分前後の遅れが常態化しているのに、「さらに遅れがひどくなりかねない」との指摘が出ています。
ワンマン運転はもともとすべての作業を一人でやらなければならないため乗降確認などに時間がかかる上に、過密路線のため余計に時間がかかることが予想されるからです。
実際、ワンマン運転の副都心線では、西武線や東武線など乗り入れ電車の遅れも相まって大幅なダイヤ乱れが発生。関東運輸局から改善命令を受けたばかりです。
副都心線でダイヤを見直し、運転士や駅の要員を増やしましたが、不十分なためダイヤ乱れもなくならず、今でも苦情が絶えないのが現実です。
ワンマン化のねらいについて東京メトロは「可動式ホームさく設置に関わる経費をワンマン化によって補う」「他社に先行して導入することにより鉄道事業の成長と企業価値の向上を実現できる」と説明しています。
可動さくを安全のための投資ではなくコストとみなし、人員削減で収益増をねらう考えです。しかし、同社は営業利益五百六億円、純利益二百四十億円(中間決算、〇八年九月)をあげています。
いったん事故が起きたら多大な被害が出る大量公共交通機関は、何よりも「安全第一」でなければならず、民営化された東京メトロがその姿勢を貫いているのか問われます。
ルール確立急務
これだけ問題が山積しているのに、ワンマン運転に設備や人員の基準がありません。
国土交通省安全管理室は「安全確保ができると事業者が判断して届ければよい」としており、各社によって対応がばらばらです。
当初からワンマン運転の都営地下鉄大江戸線は可動さくもなくホーム要員もいません。利用者や障害者団体の運動で可動さくが設置されることになりましたが、事業者任せを見直し、安全とサービスを守るルールを確立することが急務になっています。
機械任せにしないで
全日本視覚障害者協議会の山城完治総務局長の話 私たちは転落事故を防ぐためにホームに安全さくなどを設けるよう求めてきました。しかし、それを理由にワンマン運転にして、車掌や駅員を削減することは、安全やサービスの向上に逆行しています。
可動さくができれば転落事故はなくなるでしょうが、ドアに挟まれるなどそれ以外の事故がなくなるわけでもなく、駅内を安全にスムーズに移動できるようになるわけでもありません。駅員を減らす代わりに監視カメラを付けても、ホームに駅員がいる場合と比べて安全性が高まったなどといえないことも明らかです。
機械任せにせず、安全に目を配り、乗客が困らないように誘導するなど必要な人員を配置することが不可欠です。障害者はもちろん子どもからお年寄りまでだれもが安全に安心して利用できるよう、人員も設備も両方をきちんと整備することこそ必要です。