2009年2月25日(水)「しんぶん赤旗」
保育所入所 「自己責任」に
公的責任が後退 制度改悪案を決定
厚労省
厚生労働省の社会保障審議会少子化対策特別部会(大日向雅美部会長)は二十四日、市町村の保育実施義務に基づく現行の保育制度を大きく変え、利用者が保育所と直接契約を結ぶ「新たな保育の仕組み」を導入する改悪案(第一次報告)を決定しました。今後、制度の細部を議論し、二〇一〇年度か一一年度の通常国会に児童福祉法改悪案を提出、二〇一三年度から新制度を実施する構えです。
新制度では、市町村の保育実施義務(児童福祉法第二四条)をなくします。今後は(1)保育提供体制の確保(2)利用支援(3)保育費用の支払い―などの「実施責務」を市町村に課すとしていますが、公の責任は大きく後退します。
新制度では、保育の必要性・量を市町村が認定し、それに基づいて利用者が「自己責任」で保育所と契約を結びます。現行制度では保護者は市町村に保育所の利用を申し込み、市町村が優先度の高い順に入所を決定していますが、個別契約となれば、保護者にも、保育所にも、混乱や事務負担の増大は避けられません。
市町村が保育費用を補助する対象は、昨年十二月時点の案では保育所ではなく「利用者」とされ、保育料徴収も保育所が行うことが基本とされていました。「未納者対策が大変になる」などの懸念が保育現場から強く出されたため、この日の報告では明示を避け、今後の検討に委ねるとしました。
「保育には国と自治体が責任を持つべきだ」との世論と運動を反映し、第一次報告には、当初案にはなかった「公的責任の強化」「公的保育の保障」などの文言が盛り込まれました。しかし、これは字句上の手直しにすぎず、制度改変案の中身そのものを変えたわけではありません。
解説
厚労省部会の制度「改革」案
父母の願いに逆行
予算つけ保育所増やせ
「希望する保育所を選べる」「保育所の数が増える」―厚生労働省の社会保障審議会少子化対策特別部会(大日向雅美部会長)が二十四日まとめた保育制度「改革」案を、マスメディアはバラ色に描いています。
しかし、厚労省の新制度案は、そんな代物ではありません。
「家から遠い」「きょうだいが別々の園」などの事態が起こるのは、保育所の絶対数が足りないからです。市町村を介さず、保育所と利用者が直接契約を結ぶようにしても、定員以上に希望者がいれば全員が入れるわけではないことは、だれにでも分かることです。
いまは市町村の窓口が一括して保育所入所の希望を受け付けていますが、直接契約になれば、親は子どもを抱え、複数の園を駆け回って入れるところを探さなければなりません。保育所の側にも、入所者選考という膨大な事務負担が発生します。
新制度になれば保育所が増える保障もありません。厚労省は、現行制度では都道府県が財政負担をきらって、認可をしたがらないのが問題だとし、都道府県の裁量権をなくし、最低基準を満たす事業者に参入を認めるとしています。それなら、現行制度のもとで保育予算を拡充し、国の補助を増やせばすむ話です。
今回の改悪で、自治体の保育実施義務はなくなり、自治体は保育所の整備計画をつくったり、基盤整備をしたりする役割しか持たなくなります。結局は、企業などの参入を促すため、園庭や調理室の必置義務、保育室の面積基準などの最低基準を緩め、「質を下げて保育所を増やす」という方向に進む危険があります。
「希望する保育所に入れるようにしてほしい」「安心して預けられる保育所を増やしてほしい」―これが子育て世代の切実な願いであることは論をまちません。とくに、不況のもと、家計を支えるために働きに出たい女性が増え、各地で保育所入所希望者が急増しています。「申請した人の四割が認可保育所に入れない」(神奈川県川崎市)などの切迫した事態です。
この願いに迅速に応える最良の道は、現行制度のもとで抜本的に保育予算を増やすことです。国の責任で、期限を切って、認可保育所を緊急に整備すべきです。
たたかいはこれからです。制度改悪反対とともに、「予算の使い方を改め、保育所を増やせ」という国民的な運動を巻き起こしていくことが求められています。(坂井希)
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