2009年2月19日(木)「しんぶん赤旗」

米国務長官の来日

突出する「同盟強化」

背景に自民崩壊への危機感


 “オバマ米新政権は中国重視に傾いて日本を軽視するのではないか”―。一時期、日本国内で流布した「ジャパン・パッシング(通過)」論はうそのようでした。

違い打ち出すが

 クリントン米国務長官は十六日から十八日までの外交日程を精力的にこなし、「日本重視」の姿勢を強烈に押し出しました。初外遊先として日本を選び、二十四日の日米首脳会談という「サプライズ」まで実現。麻生太郎首相は、オバマ大統領からホワイトハウスに招待された最初の外国首脳になりました。

 とはいえ、打ち出した看板は「日米同盟重視」であり、歴代米政権と何ら変わりありません。

 就任前から軍事力に加え外交を中心とした「スマートパワー」を強調し、ブッシュ前政権の軍事偏重路線との違いを打ち出したクリントン氏ですが、今回の訪日からは、前政権時代に異常に強化された日米同盟を今後も維持し、さらに強化を図る意向が印象づけられました。

 ▽在沖縄米海兵隊のグアム「移転」と新基地建設に法的拘束力を持たせるための協定を結び、在日米軍再編を合意通りに進める▽日本への「核抑止」を維持する▽インド洋やソマリア沖への自衛隊派兵を促す―。中曽根弘文外相や浜田靖一防衛相らとの会談で確認された点です。

先行きへの不安

 なぜ「日本重視」を打ち出し、同盟強化に躍起になるのか。“オバマ政権は日本を軽視する”という疑念の払しょくという側面もありますが、米国にとって長年の日米同盟のパートナーである自民党の崩壊現象を念頭に置いた動きと見られます。

 訪日したクリントン氏の目の前で、自民党政治の崩壊過程が急速に進みました。同氏は今回のアジア歴訪の重要課題の一つに金融危機への対処を挙げていましたが、その問題での日本政府の責任者である中川昭一財務・金融相が「酩酊(めいてい)」会見問題で辞任に追い込まれました。十七日の夕刊、十八日の朝刊各紙は「中川問題」に占拠されました。

 民主党の小沢一郎代表との会談を実現させたのも、自民党政権の先行きに対する不安の表れといえます。小沢氏はクリントン氏に対して、「私は日米同盟が大事であることを、ずっと以前から、最初から唱えてきた」と強調。「国務長官と継続して話ができるよう、選挙で勝つ」と述べ、「政権交代」に強い意欲を示しました。

 米国の対日政策を担当してきたマイケル・グリーン氏はこう指摘しています。「今年の総選挙で勝利しても、民主党は(党内が)深刻な分裂状態にある。同党の政権は早晩、崩壊する。安定が戻るまで数カ月、いや数年かかる」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版十五日付)

恒久化への意図

 一九九六年の日米安保共同宣言以来、日米同盟はアジア太平洋地域へ、そして地球規模へと拡大し、米軍と自衛隊の軍事一体化が深化してきました。これと裏腹に進む自民党政治の崩壊による、日米同盟の政治的基盤の弱体化。最近、クリントン氏を含む日米の外交当局者が「来年は日米(新)安保条約五十周年」と繰り返し、新たな安保共同宣言の策定を目指しているのも、日本の政治状況がどうあれ、日米同盟を安定的に管理し、恒久化しようという意図を示したものといえます。(竹下岳)



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