2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」

クリントン米国務長官アジア歴訪

世界状況「中国は決定的」

各国との立場逆転「謙虚に」と元政権幹部も


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 【ワシントン=小林俊哉】クリントン米国務長官はアジア歴訪に先だって十三日、ニューヨークのアジア・ソサエティで演説し、「(米国には)太平洋を越えた強力なパートナーが必要だ」と強調しました。

 同長官は就任後の初外遊先にアジアを選んだ背景には「米国はアジアのダイナミックな動きに取り残されていると感じている」(外交評議会のシーラ・スミス上席研究員、十二日ワシントン市内の会合)との指摘があります。クリントン氏は「世界状況が変わるなかで、中国は決定的な要因だ」と述べています。

協力関係を広げる

 対中政策についてクリントン氏は、ブッシュ前政権時代の経済分野を中心とした関係から、気候変動対策など他の分野にも協力関係を広げる「包括的アプローチ」を検討しているとしています。今回の外遊にスターン気候変動担当特使を同行させるのも、そのあらわれです。

 一方、訪問先すべてで最重要課題となる世界金融危機対策については、米国がこれまでのような主導力を発揮できるか疑問符をつける声が強いのも事実です。

 元国家安全保障会議(NSC)上級アジア部長のマイケル・グリーン氏は「米国の経済モデルが正しいというワシントンコンセンサスについて議論していたころとは、もう事情が違う」(十日ワシントン市内の会合)と指摘。一九九〇年代のアジア金融危機当時とは、アジア諸国と米国の立場が逆転しているとして、クリントン氏は「謙虚」にならざるをえないと言います。

 北朝鮮の核問題も重要テーマです。クリントン氏は十三日、北朝鮮が核計画を真に放棄する覚悟があるなら、米朝関係正常化に向けて取り組むと言明。六カ国協議の重要性も強調しました。

 注目を集めているのは、インドネシア訪問です。同国は世界最大のイスラム教徒人口をかかえる国で、オバマ大統領が少年時代を過ごした経験があります。オバマ大統領の早期同国訪問の下準備との見方があります。

ASEAN関係も

 国務省高官は、同国訪問で二国間関係の強化だけでなく、「東南アジア諸国連合(ASEAN)との新しい関係」を構築する意向を示唆しています。

 東アジア・サミットへの参加に向け、東南アジア友好協力条約(TAC)に米国が参加することについての議論も出ています。グリーン氏は十日、「(条約加盟を)選択肢の一つにしようという若干の動きが出てくるだろう」と指摘。十二日にはデービッド・メリル米インドネシア協会会長が「個人的には、もうその(加盟の)時期だと思う」と述べています。

 一方、日韓両国に対しては「同盟関係の強化」をはかる意向。日本との間では金融問題に加え、米軍再編問題、アフガニスタン問題、ソマリア沖海賊対策などが議題となる予定です。

新たな国際秩序を展望

国務長官歴訪 米国の役割問うアジア

 クリントン米国務長官のアジア四カ国歴訪が十六日から始まります。二十二日まで日本、インドネシア、韓国、中国の順に訪問。世界経済危機、北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議の停滞を受け、アジア各国は、平和の構築と経済秩序の再建に向けた米国の役割を問い直そうとしています。(北京=山田俊英、ソウル=中村圭吾)

公正な経済

 中国政府はクリントン氏がアジアを初の歴訪先に選んだことに好感を示し、「国際的、地域的問題について幅広く、突っ込んだ意見交換をしたい」(外務省報道官)と期待を抱いています。中国側はブッシュ前政権下で築かれた戦略経済対話などの常設対話の継続を米側に求めています。

 温家宝首相は先月末、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで演説し、「公正、合理的、健全、安定した新しい世界経済秩序の確立」を主張しました。温首相の言う▽多国間貿易体制の健全な発展▽新しい国際金融秩序の確立▽発展途上国の利益の保護―などが、どう論議されるか注目されます。

 韓国は昨年十一月、金融首脳会議(G20)で英国、ブラジルとともに「G20の二〇〇九年の指導役」に選ばれました。柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通商相は十二日の記者会見で、「韓米同盟関係を基礎に、世界的な課題について、どのような協力をするか。包括的で大きなビジョンを協議することになるだろう」と述べました。

 世界最多の二億人のイスラム教徒が住むインドネシアでは、ブッシュ政権の対テロ戦争で対米感情が悪化しました。ハッタ国家官房長官は四日、現地紙に「この機会に相手を尊重し相互利益となる力強い関係を築かなければならない」と強調、オバマ大統領が就任演説で述べた「イスラム世界との相互尊重」を実践するよう求めました。

平和と安定

 北朝鮮の核問題では、六カ国協議のプロセス再開に向けた米国の動きに視線が集まっています。日韓両国の外相は十一日にソウルで会談し、米国との協力関係の今後について協議。中曽根弘文外相は会談後の記者会見で、「今日の会談を土台に六カ国協議を通じて北朝鮮の非核化のための協調を論議する」と語りました。

 一方で、中国はオバマ政権がブッシュ前政権よりも中国の内政問題に関与しようとしていることを警戒しています。楊潔篪(ようけつち)外相は「米国の誤った行動とは断固たたかう」(『求是』論文)と言明し、台湾、チベット、人権などでの中国への「干渉」に警告しています。

 韓国には、米国がアフガニスタンへの再派兵を求めてくるとの警戒感があります。中央日報十二日付は「アフガンは現実的な危機がいまも存在している場所だ。非戦闘、民間支援の線でオバマ政権の支援(増派)要請を防がなければならない」と指摘しています。


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