2009年1月25日(日)「しんぶん赤旗」

主張

「あたご」海難審判

軍事優先の体質転換が不可欠


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」が昨年二月、漁船「清徳丸」に衝突し沈没させた事件で、横浜地方海難審判所は衝突の主因が「あたご」にあると認定する裁決をだしました。

 裁決は「あたご」の安全・監視体制の不備を幅広く指摘するとともに、「あたご」が所属する第三護衛隊(京都府舞鶴)に対し、再発防止に向けた勧告をだしました。海難審判は「海の裁判」です。政府・防衛省は裁決を正面から受け止め、二度と衝突事件を繰り返さない対策をとるべきです。

責任逃れは許されない

 この事件は排水量が七七五〇トンもある大型の最新鋭イージス艦「あたご」が、海上衝突予防法で義務付けられた回避行動をとらずに、七・三トンの小型漁船「清徳丸」に衝突・沈没させ、「清徳丸」船主の吉清治夫さんと長男の哲大さんを死亡させた重大犯罪です。

 裁決は、「あたご」の責任を指摘するとともに、第三護衛隊が艦内の連絡・報告体制と見張り体制を「十分に構築していなかったことが本件発生の原因」と認定しました。第三護衛隊に対して再発防止策の提言と改善措置を求める「勧告」をだしたのはきわめて重要です。組織全体の責任解明に一歩せまったものです。

 護衛艦隊の幕僚長が事件発生直後に「あたご」に急行し、責任追及をどうかわすかの口裏あわせを行った疑惑さえもたれてきました。組織的な責任を認めた裁決は、大きな意味を持っています。

 一方、裁決は、当時の舩渡健艦長、長岩友久水雷長ら「あたご」操船に直接責任を負っている四人については勧告を見送りましたが、監視が不十分だったなどと、その責任は認めています。

 海上衝突予防法は、船が交差する場合、右舷側に船を見る側が右転して衝突を避けることを義務付けています。「あたご」がこの規定を守らなかったことが衝突の主因であることは明白です。

 裁決は「あたご」が右転し衝突を回避する機会がいくつもあったのに、そのつど動静監視を怠り、回避しなかったことを明らかにしています。たとえば衝突二十七分前に漁船群が右舷前方を航行していたのに操業中と「憶断」し、十分前にはレーダーで漁船群を確認したのに注意も払わず、七分前にも「清徳丸」が右側を通行していることを視認できたのに直進を続けたことなどです。

 裁決は、「清徳丸」が右転しなければ後方を通り過ぎていたという「あたご」の主張を、「清徳丸」の右転はとっさの「衝突回避行動」であり、「あたご」の主張は「合理性に欠ける」と退けました。

政府の対応が問われる

 「あたご」に乗っていた幹部自衛官が海の法規を知らないはずはありません。誰ひとりとして右転して衝突を避けようという声もあげなかった自衛隊は危険な集団と警戒されても仕方がありません。舩渡前艦長が裁決後も「清徳丸」に責任を転嫁する姿勢を変えていないのは重大です。

 事故直後から、「あたご」が衝突を避けなかったのは「そこのけそこのけ軍艦が通る」の軍事優先意識があったからだと指摘されてきました。裁決を受け、政府・防衛省はその体質にメスを入れるべきです。それが事件・事故をくりかえさない最大の保障です。



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