2009年1月20日(火)「しんぶん赤旗」
ワークシェアリングを考える
賃金引き下げの口実にも
雇用確保もたらす議論を
雇用対策の一つとして財界が「ワークシェアリング」をとなえ、一部企業に実施の動きがみられます。一人当たりの労働時間を減らして仕事を分かち合うことで失業をくいとめるというのが「ワークシェアリング」の考え。たんに財界による賃金引き下げの口実にされないように、雇用を確保する実効性ある議論が求められています。
「ワークシェアリング」は、経団連の御手洗冨士夫会長が六日、「一つの選択肢」と言及したのが議論の発端です。ところが「仕事の分かち合い」で雇用を守るといいながら、もっとも緊急の対策が求められている派遣など非正規雇用労働者は対象になっていません。御手洗氏が会長をつとめるキヤノンなど大企業各社がいっせいに「非正規切り」に走り、三月末にかけてさらに深刻化すると予測されているとき、非正規労働者の雇用確保を問題にしない「ワークシェアリング」など意味がありません。
御手洗氏の念頭にあるのは、結局、労働時間短縮を口実に正社員の賃金を引き下げることです。すでにいくつかの企業で始まっています。
富士通マイクロエレクトロニクス(東京)では、一月から三月までの間、交代勤務を一人当たり労働時間十二時間から八時間に短縮し、賃金をカットする方針を打ち出しています。同社グループで派遣社員約四百人を削減する計画に変更はないといいます。
マツダは、広島県の本社工場と山口県の防府工場で昼夜二交代制の夜間操業を中止して一人当たりの労働時間を半減し、賃金をカットする方針。派遣社員を今月末までに千五百人削減する方針は変えないといいます。
いずれも非正規の労働者の大量解雇は予定通りすすめ、新たに正規雇用の労働者の賃下げをする内容です。これは単なる操業短縮にともなう賃金カットであり、正社員の雇用をおどしに使った賃下げ攻撃です。
仕事が減って賃金が下がるということは、労働者が半失業状態になることです。これでは失業の拡大でしかなく、「ワークシェアリング」といえるものではありません。
やるべきこと
労働時間の短縮が雇用の確保・拡大に大きな効果をもたらすことは常識です。「ワークシェアリング」は、その考えにたった方法です。
日本で、労働者に一方的に犠牲を押し付けることなく、雇用を拡大するために、まずとるべき方策は、サービス残業の根絶など長時間残業の是正です。サービス残業はもともとあってはならない違法行為であり、本来「ワークシェアリング」の前提として、まず解決しなければならない課題です。
労働運動総合研究所(労働総研)が昨年十月三十一日に発表した試算によると、サービス残業は一人当たり年間百二十・七時間あり、これを根絶すると百十八・八万人の新たな雇用が創出されます。雇用拡大への効果は絶大です。
また年次有給休暇を完全に取得すれば、百三十一・七万人の雇用を増やせるとしています。これらは新たな法律をつくるなどの措置をとらなくても、企業がルールを守って、責任をもって実施すればいいことです。
諸外国では
労働時間の短縮で雇用を拡大するという本来の「ワークシェアリング」で成果をあげた事例として、フランスの「週三十五時間労働法」(二〇〇〇年六月施行)が知られています。法制定にともない、とくに五百人以上を雇用している大企業(トヨタなど日本企業を含む)のほとんどが三十五時間労働に移行しました。これで失業者を百万人以上減らしたといわれています。
オランダ方式も有名です。一九八二年に政労使三者が合意(「ワッセナー合意」)して実施されたもので、(1)経営者は雇用維持と労働時間短縮につとめる(2)労働組合は賃上げ抑制につとめる(3)政府は、減税、社会保障負担の削減につとめる、という内容です。これで労働時間が年間約二百時間短縮されて失業が減りました。
労働者の賃金が減少、パート労働が増大しましたが、政府の税制措置で不利益が緩和され、パートも正社員との均等待遇を徹底する措置がとられています。
このような諸外国の事例であきらかなように、日本で大企業がいま「ワークシェアリング」と称して実施しているのは、労働者に一方的に犠牲を押し付けるだけのニセモノです。(昆 弘見)
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