2008年12月1日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

地デジ


 二〇一一年七月に地上波放送の完全デジタル化が予定され、その対策の一環として、光ファイバー網やケーブルテレビを整備する自治体が相次いでいます。しかし、自治体や住民に重い負担がかかる弊害も出てきます。改善への住民の取り組みを追いました。


対応事業 大変です

70億を10数億円に 市民負担軽く

新潟・十日町市

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 新潟県十日町市に、ケーブルテレビ設置事業が持ち上がったのは、二〇〇四年です。市町村合併の目玉でした。当初四十二億円だった事業費が〇六年には七十二億円にふくれました。人口六万二千人の自治体には、これまでにない大事業でした。

 「おかしい」と真っ先に声をあげたのは、パソコン関係の知識人たちでした。根津勲さん(68)は「三十年近く前にわれわれの仲間がケーブル事業を研究し『採算が合わない』と見切っていた」といいます。根津さんらは「Bフレッツの会」という市民団体をつくり、ケーブルテレビの代わりにすでに全市的に展開しているNTTの光回線を使って「安くて速い高速通信を」と提案します。

 同会の白川洋平さん(61)=印刷業=は、日本共産党の安保(あぼ)寿隆市議に「こんな話がある」と声をかけました。白川さんは親類に自民党の元国会議員がおり、自身も保守の立場だった人ですが、「地域の問題で、党派は関係ない。安保さんはよくやってくれている」といいます。

 党市議団はさっそく対応を検討、無所属の保坂道賢議員(当時)と一緒に予算修正案を提案します。

 保坂氏(土地家屋調査士)はいいます。「今まで無料で見られたテレビを有料にするというのはおかしい。安保さんに、修正案を出せないかと言ったらすぐに『やるか』と」

 市は、ケーブルテレビ導入の理由に「地上デジタルテレビが見られる」ことも挙げました。「Bフレッツの会」の引間博会長=建設業=は、アンテナを持って市内百六十カ所を調査。難視聴地域は、全体の二割程度だと分かりました。全世帯対象のケーブルテレビは要りません。

 さらに安保議員は議会で事業への参入を図るケーブルテレビ業者のずさんな経営実態を暴露しました。

 〇七年七月、世論に押され、市は公開コンペ(企画提案会)を実施。NTTと契約を結ぶことになりました。予算は七十二億円から、十数億円へと軽減される見通しです。

 安保議員はいいます。「合併特例債を使った無駄な大型事業は止めなければならないという思いで頑張りました。今回の成果は、市民との共同が広がった結果だと思います」(和田肇)

光ファイバーでテレビ難民が 「会」つくり運動

徳島・上勝町

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 徳島県上勝町(かみかつちょう、人口二千人)では、地デジ対応もかねて光ファイバー網を全戸に整備しました。それにもかかわらず「テレビ難民」が発生しました。

 光ファイバーの整備に伴い地域で運営してきた共聴アンテナ組合が相次いで解散してしまいます。しかし、ケーブルテレビの加入料金や月額利用料金が高額なため、加入できない世帯が、「テレビ難民」として取り残され、テレビが見られなくなってしまったのです。

 二〇〇五年、隣接する勝浦町と共同で、事業費約七億円(総務省からの補助が三分の一)を投じて「情報化基盤整備事業」に乗り出しました。テレビでインターネットやIP電話の使用が可能です。行政のイベント放送のサービスも受けられます。

 「便利」になった半面、負担が住民に重くのしかかりました。当初の加入金は五万二千五百円(現在十七万八千二百九十円)。月額料金はインターネットを使用するかどうかにかかわらず一律二千六百九十八円です。

 日本共産党の明本恵一町議は「これまで月額数百円程度で共聴アンテナを利用してきた住民や、年金だけが頼りの高齢者にとっては高過ぎる」と指摘します。

 昨年夏、自治体情報政策研究所が町で利用実態調査を行ったところ、月額料金が「高過ぎる」とした回答が66%にものぼりました。“目玉”の高速インターネットも、56%が「使っていない」と回答していました。

 「住民負担を減らすため、テレビとインターネットの料金を切り離し、せめて利用料を千円程度でテレビを見られるようにしたい」と語る明本町議は、町民有志と「テレビを見る会」を結成。町議会へ公平な料金制度を求める請願を提出してきました。日本共産党国会議員団と連携して取り組み、総務省から「(料金の分離は)町の考え方しだい」という回答を引き出しています。

 町長も「不公平感」があると認め契約の期限が満了する際検討すると約束しました。しかし、高齢者は「八年も待てない」と是正を求めるたたかいを強めています。(佐藤研二)


 地上デジタル放送 地デジを見るには対応テレビかチューナーが必要です。テレビは最低でも四、五万円。加えてUHFアンテナの購入や取り付け、室内配線で三万―十数万円程度かかります。ケーブルテレビや共聴アンテナを使っている場合には、それもデジタルに改修しなくてはいけません。多額の負担のために、このままではテレビを見られない人々が出てきてしまいます。


公共事業として必要性乏しい

大阪自治体問題研究所 黒田充氏が指摘

 地デジで新たにケーブルテレビを導入したり、光ファイバーの整備事業に乗り出したところがあります。

 光ファイバーに着手した自治体の多くは、農山漁村や離島など過疎を抱える地域です。八月に大阪で開かれた「光ファイバー・ケーブルテレビ整備事業問題全国交流集会」(主催・大阪自治体問題研究所)での報告によると、その数は百ほど。ほとんどが市町村合併を機に進められています。

 自治体を事業に駆りたてているのが、二〇〇一年に政府が打ち出した「e―Japan戦略」。全国に高速インターネット網(ブロードバンド)を整備する構想を掲げました。

 都市部を中心に光事業を展開するNTT東日本の場合、〇六年度の営業収益は二兆六百十四億円にも達します。一方、人口が少ない“不採算地域”の責任を負わされたのが自治体です。国の補助金や合併特例債をテコに事業が進められ、「一一年の地デジへの対応」も整備目的の柱の一つとして宣伝されました。

 しかし、一世帯あたり約二十万―三十万円かかる事業費や、その後の維持費は自治体の財政を圧迫します。住民は共聴アンテナの数倍もの月額料金が必要です。過疎や高齢化が進む地域でのインターネット利用率は低く、都市部での加入も落ち込んでいます。

 交流集会で同研究所の黒田充研究員は「現時点で国民生活に不可欠といえない光ファイバー事業は、公共事業としての必要性が乏しい」と指摘します。

 「地デジテレビを見るだけなら共聴施設の改修などで十分。国民があまねくテレビを視聴できるよう義務を負っている放送事業者と国、利益をあげている業界にきちんと責任をとらせることが重要です」


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