2008年11月1日(土)「しんぶん赤旗」
主張
米軍地位協定交渉
イラク国民は撤退を求める
米ブッシュ政権がイラクのマリキ政権との間で進めてきた「駐留」米軍地位協定の締結交渉がふたたび行き詰まっています。約八カ月の交渉を経て十月中旬に事務レベルで協定案に合意したものの、マリキ政権は修正を求めることを閣議決定しました。
イラク国民が主権の回復を強く求める中、協定案はイラク議会の承認を得られないとの判断です。締結期限の年末までに合意できない可能性も指摘され、米側は経済支援の打ち切りを示唆するなど脅しともいえるやり方でイラクに協定案の受け入れを迫っています。
迫る締結期限
米軍はイラクに約十四万人の部隊を展開しています。地位協定は、多国籍軍の駐留を認めた国連安保理決議が年末に期限切れとなった以降も米軍駐留を合法化するため、米側が締結を求めているものです。
協定案は米軍の駐留と軍事作戦を認める一方、米軍戦闘部隊は二〇〇九年六月末までにイラク軍と交代して基地に撤収し、さらに一一年末までにイラクを撤退するとしています。ブッシュ政権は当初、撤退の時間枠を示すことを拒否しましたが、イラク側の主張をのまざるを得ませんでした。
一方で協定案は、米兵・軍属が基地外で罪を犯した場合、「公務中」はもちろん「公務外」であっても「重大かつ故意の犯罪」でなければイラク側に一次裁判権を認めていません。米軍の軍事作戦はイラク政府の承認のもとで実施されるとしていますが、イラク政府に米軍の作戦を抑止する実質的な権限を認めるものではありません。
マリキ政権は、撤退の一一年末以降への延長禁止をはじめ、米兵犯罪の「公務中」の判断をイラク側が行う、など複数の修正を求めていると報じられています。
交渉が難航する中、米特殊部隊によるイラクの隣国シリアへの越境攻撃(十月二十六日)がイラクの姿勢をさらに厳しくしています。シリアは子どもや女性ら民間人が犠牲になったとして強く反発し、主権侵害を非難する書簡を国連安保理事会に送りました。
イラクも米国に抗議し、事件を調査するとともに米軍に再発防止を求めると表明しました。米国がイラクに無断でイラクを出撃基地として隣国を攻撃したのですから、イラクの主権はないに等しく、イラク側の反発は当然です。
しかし、米国はアフガニスタンからのパキスタンへの攻撃など、無法な越境攻撃を強めています。ゲーツ米国防長官は、大量破壊兵器の拡散やテロの脅威に対する“自衛権”の発動だとして越境攻撃を正当化する考えを表明しました(十月二十八日)。シリアへの越境攻撃は、米軍が居座り続ける限りイラクは主権を回復できないことを改めて浮き彫りにしています。
事実上の占領継続
ブッシュ政権は協定案の修正受け入れを拒んでいますが、その扱いは四日後に迫った米大統領選後になります。イラク国民には、協定が米軍による占領継続を認めるものだとの批判が強く、首都バグダッドでは、「米軍出て行け」のデモも起きています。
協定交渉は、米軍の駐留延長がイラクの平和と安定とは両立しないことを示しています。解決するには、米軍の速やかな撤退以外にありません。
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