2008年10月25日(土)「しんぶん赤旗」
主張
裁判権放棄
これでも密約を否定するのか
「公務外」で罪を犯した米兵に対する裁判権を日本政府が事実上放棄することを米政府に約束した密約の原文が見つかりました。国際問題研究者の新原昭治氏が米国立公文書館で入手したものです。
密約の内容は米政府公開文書や法務省が作成したマル秘の検察資料などですでに明らかになっていましたが、密約の原文そのものが見つかったのは初めてです。政府は密約の存在を否定していますが、もはやそうした説明が通用しないことを自覚すべきです。
署名もしている
米軍地位協定一七条は、「公務外」の米兵の罪は日本が第一次裁判権を持つと明記しています。しかし、日本が裁判権を放棄する約束をしていたことは、これまでくりかえし指摘されてきました。「公務中」といわれて米兵を米軍に引き渡したり、起訴もしない扱いが問題になってきました。
密約は一九五三年十月二十八日の日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会で取り決められたものです。日本側の刑事部会長である津田實法務省総務課長は、「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがない」と声明し、署名までしています。しかも津田総務課長はこの前の二十二日の会議で、裁判権分科委員会日本側委員長として、米兵が「日本の当局により身柄を保持される事例は多くない」とまでのべています。これでは法に照らして米兵を裁判にかけるなどはじめからできるはずはありません。
日本があらかじめ「いちじるしく重要」と判断されないものは裁判権を行使しないというのは、法治国家にあってはならないことです。裁判にかけるかどうかは犯罪に応じて検討されるべきことなのに、あらかじめ包括的に裁判権を行使しないと約束すること自体がきわめて異常です。
日本側がのべた「いちじるしく重要」という文言は、もともと米政府が押し付けたものです。日本に「可能な限り最小限の数の事例以外は裁判権を行使しない」ことを約束させるために用意したものです(五三年九月一日の交渉記録)。アメリカの狙いを承知でこの言葉を使うなど、日本に主権を守る意識がなかったことは明白です。
しかも法務省は密約への署名に先立って、刑事局長名で検事長や全国の検事正に対して、「実質的に重要であると認める事件についてのみ第一次裁判権を行使する」との通達(五三年十月七日付)までだしています。あらかじめその実行を内部に徹底していたわけです。これほど卑屈なことはありません。
密約はいまも有効というのが米政府の見解です。在日米軍司令部の法務担当ソネンバーグ中佐は論文「日本の外国軍隊の地位に関する協定」(〇一年)のなかで「日本はこの了解事項を忠実に実行してきている」と明言しています。
基地をなくすしかない
裁判権は日本の国家主権の根幹をなす権利です。密約は即刻破棄するのが当然です。
密約をめぐる日米交渉が示しているのは、米軍の駐留のためには無法なことも平気で押し通す米政府のごう慢な態度です。こんな態度が続く限り米軍犯罪をなくすことはできません。米軍犯罪をなくすためにも、基地を撤去し、米軍を撤退させることが不可欠です。
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