2008年10月23日(木)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症認定集団訴訟

もう先のばしは許されない


 原爆症認定集団訴訟で国・厚生労働省は、十二連敗を重ねても地裁判決については控訴を繰り返し、高裁で負けるまで争い続ける態度です。四月からの認定新基準への改定につづき、さらにその再検討を迫られながら、なお全面解決に踏み出そうとしません。

 その根本には、追い込まれながらも原爆被害に正面から向かい合おうとしない姿勢があります。その道理のなさは、ますます鮮明になっています。

政治決断で一括解決を

 従来の認定審査の基準はすべての判決できびしく批判され、「改める」と撤回せざるをえなかったものです。しかし国・厚労省はいまだに科学的に正しい、原告の認定申請を却下したのは間違っていなかった、新基準は「政策的な判断による」―と主張し続けています。

 新基準は認定枠を拡大したものの「積極的認定」の対象をがん、白血病など五疾病に限定しています。距離、時間など被爆条件について機械的な切り捨てにつながる線引きを持ち込みました。「政策的な判断」といいながらまともに説明できない制限を加えたのです。

 実際、四月以降の二高裁、四地裁の判決すべてが「積極的認定」対象外の原告についても認定すべきだとし、新基準の不備は否定しがたくなりました。厚労相は、「積極的認定」対象外についての「総合的判断」でやった方が早い、再見直しは時間がかかると、拒否発言を繰り返しました。「総合的判断」の審査は遅々として進まず、膨大な審査の滞留も問題になり、新基準を再検討せざるをえなくなっています。

 そして、これまでほとんどの判決で放射線の影響が認められた肝機能障害と、大阪高裁判決で国が上告をあきらめ原告勝利が確定した甲状腺機能低下症について、「積極的認定」の対象に加えるかどうか「取り扱い」を検討することになり、このほど議論が始まりました。しかし旧基準で大量の認定申請を却下してきた専門家が多数を占め、裁判でも国側の証人としていまなお旧基準は「科学的知見」と正当化する専門家もいる審議会の結論に、楽観はできません。切り捨てのために科学を悪用することを繰り返させてはならない、政治の決断こそ必要だという声が上がっているのは当然です。

 四月以降、新たに原爆症と認定されたのは千二百四十一人(十月二十日現在)です。このうち千百十六人が、従来の基準であれば、放射線の影響は受けていないと却下されたに違いない人たちです。原告も三百四人中百七十人が認定されました。やっと救済の手が届き始めたとはいえ、肝機能障害などに加え、他の疾病や障害で勝訴しながら、まだ認定されていない原告も五十人ほどいます。すでに原告五十九人もが亡くなり、集団訴訟の早期・一括解決をこれ以上、先のばしすることは許せません。

被爆の実相をひろげて

 強固な認定拒否の壁に穴を開けたのは被爆者のつらい体験であり、その事実に立脚して残留放射線の影響など科学的な解明を進めてきた科学者、医師、弁護士らの努力と支援の運動でした。

 被爆の実相を明らかにすることで原爆症認定のたたかいは前進してきました。これをさらにひろげてこそ、全面的な解決と核兵器廃絶につなげることができます。


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