2008年10月22日(水)「しんぶん赤旗」
主張
国内排出量取引
温暖化対策に真剣さが乏しい
政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・麻生太郎首相)が国内排出量取引制度の試行を決定しました。今月から試行し、来年から取引を開始する予定です。
排出量取引は欧州連合(EU)も二〇〇五年から導入し、二酸化炭素(CO2)の排出削減に一定の役割を果たしています。ところが政府が導入するのは実績あるEUの制度とは似て非なるものです。温暖化防止は待ったなしの課題です。政府は、ごまかしでなく真剣に対策に取り組むべきです。
ごまかしの新制度
EUをはじめ世界で導入が広がっている排出量取引制度は、政府が企業ごとにCO2排出量の上限(キャップ)を設定し、目標を達成できなかった企業が超過達成した企業から超過分を買い取る(トレード)「キャップ・アンド・トレード」方式です。排出削減に市場メカニズムを利用するものですが、上限が義務づけられ、達成できなければ罰則が科されるために、削減に役立つのです。
一方、日本政府が導入を決めた排出量取引制度は、企業に排出削減を義務づけたものではありません。企業は制度への参加を義務づけられないだけでなく、削減目標も参加企業が「自主的」に設定します。目標を超過した分は売却できますが、達成できなくても罰則はありません。
目標設定には「(単位)生産量あたりの排出量」基準も認め、生産増に伴う排出増を容認してもいます。キャップのないトレードに排出削減の実効性は期待できません。せいぜい企業に新たな金もうけ手段を提供するだけです。
こんな制度になったのも、政府が企業の「自主性」尊重を要求する財界に唯々諾々と従ったからにほかなりません。
排出量取引は、国・地域全体としてCO2排出量を削減する政治意思と目標に結びつけられてこそ、それを達成する補助手段として意味をもちます。国の削減目標に結びつかない排出量取引では意味がないのも当然です。
日本は、京都議定書の第一約束期間が始まっても、一九九〇年比で6%削減の国別目標を達成する実効的対策をとっていません。年末に開かれる国連気候変動枠組み条約第十四回締約国会議(COP14)に向けても中期目標の数字を示さず、様子見を続けています。
アメリカ発の金融危機が世界的な景気後退につながる可能性が強まっている中で、企業にとってはコスト増となる温暖化対策を自主的に進めることはいっそう困難になっています。
その中でも、英政府は温暖化ガス排出削減の長期目標を五〇年までに九〇年比80%削減に引き上げると発表しました。EUは首脳会議で、二〇年までに九〇年比20%削減の中期目標で、年内の正式合意を目指す方針を確認しました。
真の対策のために
日本共産党は総選挙政策で、(1)ただちに削減の中長期目標を示す(2)産業界での削減のため公的削減協定などを実施する(3)自然エネルギーの目標を拡大し促進する(4)国の将来戦略に温暖化対策を位置づけ、政府の取り組みを義務づける「気候保護法」(仮称)を制定する、ことを掲げています。
待ったなしの課題に背を向け続ける自公政権にこれ以上かじ取りをまかせることはできません。
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