2008年10月5日(日)「しんぶん赤旗」
米金融法成立
税金投入に疑問根強く
ウォール街への不透明な支援策
七千億ドル(約七十五兆円)もの税金を金融機関につぎ込む「金融支援」法が三日、成立しました。下院での否決(九月二十九日)後、中低所得者への減税措置を盛り込むなどの修正が加えられましたが、大枠は変わっていません。米国民は、「ウォール街への救済策」に厳しい目を向けています。(ワシントン=鎌塚由美)
下院否決の翌日、三十日に実施されたギャラップ社の世論調査では国民の57%が、税金投入策を「一からやり直し、新しい法案を用意すべきだ」と回答しました。同社は、世論は米議会がばく大な税金投入ではない「まったく別のやり方を求めている」と指摘しました。
大統領選挙激戦地の一つ、東部ペンシルベニア州の地方紙ブラッドフォード・イアラ紙(電子版)は二日、「市民は(法案を)ウォール街、大企業の経営責任者、富裕層に有益なもの」と見ていると指摘、「納税者一般は恩恵を受けない。国民生活の改善のための提案もない」との住民の声を伝えています。
ニューヨーク・タイムズ紙(三日付)も、投稿欄で「金融支援」策についての声を特集。イリノイ州の男性は「ウソで三兆ドル戦争に国民を導いた大統領と、支持率が一ケタに向かおうとする米議会と、危機に取り組むためとして完全な自由裁量権を要求した財務長官に対し、国民は疑わしく思う権利がある」と投稿しています。
ノーベル経済学者のジョゼフ・スティグリッツ教授(米コロンビア大)は二日、放送番組「デモクラシー・ナウ」に出演。政府の計画は、「ウォール街から不良債権を国民が引き受け、優良債権は彼らの手に残す」もので「不透明なウォール街救済策」だと指摘しました。
“負担は金持ちに”
ムーア監督呼びかけ
映画「シッコ」などで米国社会のさまざまな矛盾を告発している監督のマイケル・ムーア氏は、金融危機に関連して、「金融機関の救済は大企業や大資産家の負担でおこなえ」と訴えました。
三日、ネット上に掲載された「ウォールストリート混乱の収拾策」と題するコラムで同氏は、米国では「四百人の大金持ちが底辺の一億五千万人を合わせたのと同じ一兆六千億ドル以上の富を有している」と指摘。この富裕層がブッシュ政権八年間に七千億ドルも富を増やしてきたと強調しました。
同氏は、議会に対し特別検察官を任命して、銀行を破たんさせた関係者を処罰せよと要求。銀行救済の資金は富裕者から徴収すべきだと提案しました。同氏は、(1)年収百万ドル以上の世帯に10%の特別付加税を五年間課税(2)株取引への課税強化と投資利益の四分の一を徴収(3)法人税率を一九五〇年代の水準に戻すなど大企業への課税強化、などをあげました。
また抵当流れになる百三十万戸の住宅所有者に一戸当たり十万ドルを資金供給することや、金融規制緩和法の撤廃や経営者の高額給与の禁止などを提案。「金融システム崩壊」といった扇動にまどわされることなく、この機会に国民のための人民銀行を建設しようと呼び掛けました。
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