2008年9月22日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
町の発展を展望し
聖籠町は保育料無料(3〜5歳)
新潟
新潟県聖籠(せいろう)町では、子育て支援に力を入れ、昨年四月から三歳児から五歳児までの通常保育(午前八時半から午後三時まで)の保育料を無料にしたり、中学校卒業までの医療費を助成しています。聖籠町の子育て支援の取り組みを取材しました。(新潟県・村上雲雄)
中卒まで医療費助成 誕生祝金支給します
新たな負担 約2千万円
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「保育料の負担が少なく、周辺の市町村の保育料と比べ何万円単位で違うので、知り合いからうらやましがられる。ありがたくて、子育てするのにすごくいい町だと喜んでいます」。こう話すのは、同町で五歳と一歳の子どもを育てる山田早苗さん(39)=仮名=です。
同町では、二歳までは町立と私立の二つの保育園で保育します。二〇〇五年から三歳から五歳までは三つの小学校区単位にある町立子ども園(幼稚園)で保護者のニーズにあった保育ができるようになっています。
二歳までは、国基準による保育料になります。三歳から五歳まではそれまで月四千円の保育料でしたが、昨年から通常保育で無料にしました。長時間保育でも、午後五時半まで希望する人には月千円、午後七時まで希望する人でも月二千円の保育料。早朝七時半から希望する人でも延長時間によって、月五百円から二千五百円の保育料になっています。この措置による町の新たな財政負担は約二千万円といいます。
医療費助成では、所得制限はなく小学校卒業までだった助成の対象を四月から中学校卒業までに拡大。通院で月三千円を超える額を助成、入院では一日千二百円を超える額が助成(小学卒業まで)されます。就学前までは通院で一回五百三十円の一部負担になっています。そのほかの子育て支援としては「健やか子育て誕生祝金」で、第三子まで五万円、第四子以降は十万円を支給。「健やか子育て支援金」では、第四子以降で就学前まで月五千円が支給されます。
育児に安心感 保護者も歓迎
小学一年と五歳の子どもがいる小林真佐子さん(33)=仮名=は「保育料が無料で助かっています。医療費助成でも、何かあったときのために安心感がある。子育てで安心感があることは大切です」と語ります。
町立聖籠子ども園(保育園)の中村洋子園長は「三歳児以上がいなくなってから(スペースが広がり)、二歳以下の子どもは伸び伸びしているようです。三歳以上が誰でも幼稚園に入れることで、集団生活が身につけやすくなるし、小学校に上がっても同じ友達がいるので安心感があるのではないでしょうか」と語っています。
日本共産党の中村恵美子町議は、たびたび子育て支援で質問し、九月議会で渡邊廣吉町長は、無料の妊産婦健診を来年度から十四回に増やすことを検討すると答えました。
渡邊廣吉町長に聞く
将来担う子どものため
国の社会保障削減や地方交付税削減などの構造改革が進められ、平成の大合併で小規模自治体が生き残りにくい状況と少子・高齢化の中で、自治体としてどう施策を進めていくか考えました。幸い、聖籠町には新潟東港工業団地があることによる税収で、地方交付税不交付団体として一定の財政基盤があります。それを生かして小さい町(人口一万四千人)でも将来に渡り発展できるよう展望した施策の一つが、保育料の無料化などの子育て支援です。
三歳から五歳までの通常保育の保育料を無料としたのは、誰でも負担がなく子どもを預けられ、集団の中で安心して子どもを育てられる環境をつくってあげることが大切だと思ったからです。
父母には、保育料負担が減った分は、子どもに本を買って読んであげたり、別の手当てに使うとか、将来の教育費の積み立てにするとかにしてほしいと考えています。
「三つ子の魂百まで」ということわざがありますが、幼児の段階で健全に育ってくれれば、学校に上がったり、大人になっても立派に仲間入りできることにつながると思っています。将来のためのしっかりした人材育成が必要です。
四月から中学校卒業までの医療費助成を始めたのは、専門家の意見も聞いて、現状では中学生の精神的治療面やぜんそくなどの慢性疾患での治療費負担を考えての施策です。
無料の妊産婦健診も来年度から十四回に増やせるよう検討をしたいと思っています。子育て支援の施策は、一つ一つ住民や関係者の理解を得ながら進めてきました。
福祉や教育は金があるからやるのではなく、金がなくてもやる気があればできます。いかに優先づけてやるかです。聖籠町の子育て支援は周りからうらやまれ、人口も増えています。安心して子どもを生み育て、将来を担う子どもの施策が優先です。いずれ花開くときがくるのではないかと期待しています。
大事なことは「何を優先させるか」
日本保育学会常任理事 村山祐一氏の話
保育料について、いろんな調査を見ても「高すぎる」「軽減してほしい」という切実な声が父母から寄せられています。高すぎる保育料の引き下げは、待機児童の解消と並んでもっとも要望の強いものです。
保育を必要とする世帯は、家庭生活が始まったばかりで所得はそれほど高くない人が多く、当然の要求です。保育料が高くて、親の生活を圧迫しています。しかし、少子化対策の重要性が指摘されながら、その負担を解消する施策にはほとんど手がついていないのが実態です。
保育料をはじめ子育て環境整備のための具体的な要求をしていくと、すぐ「その予算はどこから持ってくるんだ」という議論になります。
しかし、次代を担う子どもたちを育てていくのは、お金があるかないかと言う前に、国や自治体の施策で何を優先していくのかという事が大事なのです。その議論、哲学が、今もっとも必要ではないかと、私は思います。
そもそも日本の子育て予算(保育所関係予算、児童手当、育児休暇手当など)は、OECD(経済協力開発機構)加盟の先進国三十カ国中二十六番目と、世界各国に比べても大変低い。
その意味でも、「将来を担う子どもたちへの施策が自治体の政策の基本だ」という聖籠町の姿勢は、日本一豊かな財政力を誇る東京都や国もぜひ見習うべきです。(帝京大学教授)