2008年9月9日(火)「しんぶん赤旗」

海自いじめ自殺

遺族側の勝訴確定

「判決受け入れ謝罪せよ」


 海上自衛隊佐世保基地の護衛艦「さわぎり」で一九九九年、三等海曹の男性(21)=当時=が自殺したのは、上官の侮蔑(ぶべつ)的な言動が原因だったと認定し、国に三百五十万円の賠償を命じた福岡高裁判決が八日、防衛省の上告断念で確定しました。

 増田好平事務次官が記者会見で明らかにしました。

 判決は自衛隊員の自殺で国の責任を認めた初の事例。横浜地裁、静岡地裁浜松支部でも「自殺はいじめによる」と主張する遺族による賠償請求訴訟が争われています。

 増田次官は、上告断念の理由を「法律上の上告受理に該当する事項が見当たらなかったため」と説明しました。判決が指摘した上官の行き過ぎた言動が「いじめ」に当たるかどうかについては言及を避けました。自衛隊員の自殺といじめをめぐる同様の訴訟への影響については「コメントを差し控える」としました。

 同省の上告断念について、三等海曹の遺族は「判決は息子の命そのものです。防衛省と自衛隊が、上官の違法行為が息子を自殺に追い込んだと認定した判決を受け入れるのであれば、息子に謝罪してほしい。今後は裁判へのエネルギーと同様に再発防止に本気で力をそそぎ、他の請求訴訟の原告の訴えを真剣に受け止めてほしい」と注文しました。


解説

再発防止へ 真剣な対応を

 「判決は息子の命」。自殺の原因を上官の違法な言動と断定し、国に賠償を命じた福岡高裁判決を勝ち取った原告、三曹の母(60)の痛切な言葉です。しかし防衛省の上告断念についての増田事務次官の対応からは、年間百人前後も続出する自殺問題、とりわけ深刻ないじめ問題と真剣に対応する構えは見えてきません。

 判決が指摘した上官の「行き過ぎた(違法な)言動がいじめに当たるかどうか」について聞かれ、同次官が言及を避けたのには理由があります。

 高裁判決は、自衛隊(艦)の任務が危険を伴うことから「厳しい指導を行う合理性」を認めながらも、人格否定の言動や心理的負荷を与える行為は違法と断定しています。民間労働者と同様に使用者(上官)による安全配慮義務の適用も求めました。

 イラクやインド洋など米軍と行動を共にする憲法違反の海外派兵を「本来任務」とし、「戦争する自衛隊」に向けて態勢強化を図る自衛隊にとって、「一般扱い」は容認できることではありません。

 しかし判決は確定しました。「いじめ自殺の抜本的な再発防止の真摯(しんし)な検討と推進を求める」(原告弁護団)世論は確実に強まるでしょう。(山本眞直)


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