2008年9月9日(火)「しんぶん赤旗」

社会進歩と女性

「女性の世界史的復権」の時代が始まっている

不破社研所長の講演


 日本共産党社会科学研究所の不破哲三所長は、七日、「新日本婦人の会」内党後援会主催の講演会で、「社会進歩と女性」について話しました。講演は約三時間にわたりましたが、そのポイントを紹介します。


女性解放の道――古典から学ぶ

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(写真)講演する不破哲三日本共産党社会科学研究所所長=7日、党本部

 講演は、今から百二十四年前にエンゲルスが執筆した『家族・私有財産・国家の起源』の内容をふりかえることから始まりました。不破氏は、最初に、「いまなぜ、『起源』なのか」と問いかけ、「それは、エンゲルスがここで提起した未来社会における女性解放の展望が、女性問題で現在世界に起こっている大変化を理解する指針をあたえてくれるからです」と答えます。

 不破氏によれば、この本でのエンゲルスの解明で大事なことは、次の諸点です。

 ――人類社会は女性差別などが存在しない時代が数万年も続いていた。そこでは、親子関係は母系が中心で、女性が担当した家政も、男性が受け持つ生産活動にならぶ社会の公的活動だった。

 ――やがて男性が従事する生産活動の比重が大きくなり、その都合から、親子関係も父系が中心に変わり、社会の全体が男性支配の社会に変貌(へんぼう)した。これが「女性の世界史的敗北」(エンゲルス)で、この「革命」はヨーロッパでは、二千―数千年前に起こった。

 ――いま、女性参政権など女性の法律上の権利の平等が問題になっているが、それだけでは本当の意味での男女平等の社会は生まれない。平等社会を回復するためには、「公的産業への女性の復帰」――女性が生産活動をはじめ社会の公的活動に平等の権利をもって参加することが、カギになる。それには、女性が育児をはじめ家事の全体をになっている状態を解消することがどうしても必要だ。私たちがめざす社会主義社会は、家事の大部分を社会がになうシステムをつくりあげ、女性の公的活動を保障する社会となるだろう。

世界で女性の地位はどう変わってきたか

 エンゲルスのこの提唱から百二十四年、この問題で、世界は大きく変わりました。

 政治的平等の問題では、女性参政権は、いまでは文字通り世界の普遍的原理といえるところにまで拡大しました。二十世紀のはじめには、女性が参政権をもった国はニュージーランドただ一国でしたが、二十一世紀を迎えた現在では、世界の百九十三カ国のうち、百八十九カ国で女性参政権が確立し、それがないのは、バチカン市国とアラブの三つの君主制国家だけ、どれも国政レベルでの議会も選挙もない国です。

 さらに巨大な変化が起こったのは、社会的平等の分野です。

 不破氏は、第二次世界大戦後の大きな変化として、世界資本主義の戦後の高成長が、女性の職場進出を大規模に進めたことを、主な国ぐにの状況を描き出したグラフを示しながら説明しました。

 「エンゲルスが未来社会の展望とした『女性の公的産業への復帰』が、先行して資本主義世界の現実となったのです。社会はいやおうなしに、その条件づくりに取り組まざるをえなくなり、そのことが世界的な女性の運動と結びついて、差別撤廃・男女平等の新しいルールを生みだしてきたのです」

 この問題には、二つの焦点があります。

 一つは、職場での平等を確立することです。この問題で、不破氏は、戦後の発展のなかで、(1)「同一価値労働同一報酬」という言葉で言われる賃金の平等の要求、(2)採用、選考、昇進など雇用にかかわるすべての問題での「均等待遇」の要求、(3)形式だけととのえたが差別の実態は変わらないという「間接差別」の排除など、三つの点で男女平等の要求が深められていることを紹介しました。

 もう一つは、家事の面で女性が担う負担を解決する問題です。この問題を、エンゲルスが「女性の公的産業への復帰」を実現するための社会的な条件づくりとして重視したことは、さきほど説明しました。この問題への世界的な取り組みがはじまったのは、一九七五年に国連の提唱で開始された「国際女性年」の運動のなかででした。不破氏は、国連や国際会議の宣言や国際条約の文面の変化を紹介しながら、六〇年代後半から十年ほどの間に、この問題に取り組む考え方が急速に深められていった過程をたどり、その到達点が、七九年に国連総会で採択された「女性差別撤廃条約」に集約されており、この条約が女性差別の社会から男女平等の社会への転換点となったと、語りました。

転換点となった「女性差別撤廃条約」

 国連では、男女の平等については、創立の時点から重視して国連の目的にも明記してきましたし、「世界人権宣言」(四六年)や「国際人権規約」(六六年)でも強調し、六七年には「女性差別撤廃宣言」というこの問題にしぼった宣言も採択しました。しかし、七九年の「女性差別撤廃条約」はこれまでの宣言とは違う重大な特徴を持っています。

 その一つは、これが「条約」であって、これに参加する「締約国」は、自国の国民にたいしても、世界にたいしても、その条文の内容を執行する義務を負う、ということです。

 もう一つは、その内容の重大さです。条約の前文および条項には、女性差別にかかわる問題で、これまでの探究の到達点が疑問の余地のない形で明記されています。雇用にかかわる平等の問題も第一一条に詳しく規定されていますが、いちだんと重要なことは、社会への女性の進出と家庭の問題とを両立させる問題について、その解決の方向を明示していることです。

 条約はまず、家庭的な責任の最大の部分をなす「子どもの養育の問題」について、これを「男女および社会全体が共に責任を負う」べきものだと規定しています(前文)。そして、社会がその責任を果たす問題では、親が家庭責任と公的活動への参加とを両立できるように「必要な補助的な社会的サービスの提供を、特に保育施設網の設置および充実を促進する」ことを、締約国の責務として規定し(第一一条)、男女の共同責任の問題では、「社会および家庭における男性の伝統的役割を女性の役割とともに変更することが男女の完全な平等の達成に必要である」ことを強調したうえ、本文では、「締約国」は、男女の役割についての固定観念を打破し、古いものを残した慣行をやめさせ、社会の行動様式を修正するための措置をとり、教育の面でもその線にそった活動が必要だということまで規定しています(第五条)。

 この条約は、まさに男女平等の原則を、各国がまもるべき社会のもっとも重要なルールとして位置づけ、その原則で社会をつくりなおそうということを世界に呼びかける内容をもっています。

 不破氏は、条約での世界の到達点を詳しく説明しながら、「エンゲルスは過去に起こった『女性の世界史的敗北』について述べたが、この条約を転換点として、『女性の世界史的復権』の時代が始まったと言ってよいと思う」と述べました。

 しかも、現在の世界は、男女平等のルールを推進する特別の仕組みをもっています。十九世紀に、イギリスで労働時間を短縮する最初の工場法が生まれたとき、その実施方を推進するために工場監督官の制度が設けられました。マルクスは、『資本論』で、工場主の違反を摘発して奮闘する監督官たちの活躍ぶりを生き生きと描いていますが、現代の世界の男女平等の諸条約も、条約での言いっぱなしではなく、その実施を確保するためのいわば“平等”監督官をいくつももっています。労働法の面での監督官は、一九一八年以来の長い歴史を持つILO(国際労働機関)の「条約勧告適用専門家委員会」です。人権の角度からの監督官は、国際人権規約によって設けられた「国連規約委員会」です。さらに、女性差別の全般に目を配る監督官は、「女性差別撤廃委員会」です。現在の世界は、こういう監督役の委員会が、各国の政府から報告を受け、また諸団体からの意見にも耳をかたむけながら、男女平等のルールをまもり実現するために活動している世界なのです。

 男女平等の問題で大きな役割を果たしている組織としては、もう一つ、欧州連合(EU)をあげなければならないでしょう。現在、ヨーロッパの二十七カ国が参加していますが、共通の通貨(ユーロ)を持っているだけでなく、労働・社会方面でも共通のルールを持つ努力をとくに九〇年代以降強めて、女性差別撤廃の条約で決まったことについても、ヨーロッパ全体でこれを具体化する面で、大きな推進力を発揮しています。いま「経済協力開発機構(OECD)」という国際組織があって、世界の主だった資本主義国三十カ国が参加していますが、そのうち十九カ国がEU加盟国ですから、そこでの決定は資本主義世界全体に大きく影響するのです。そのヨーロッパが、男女平等の問題でもっともすすんだルールを持つ地域になっていることは、世界の動きにたいへん大きな意味を持ちます。

日本社会では異常な女性差別が続く

 では、日本の状態はどうでしょうか。

 政府は、主な条約は批准し、対応する法律も一応ととのえてはいます。しかし、実生活での差別の実態は変わっていないのです。

 不破氏は、そのことをいくつかの統計数字で明らかにしました。

 ○三十歳代の女性の「労働力率」。主な資本主義国二十四カ国のうちで二十三番目。

 ○男女の賃金格差。多くの国が女性の賃金は男性の70〜90%なのに、日本は59%。

 ○国会議員のなかでの女性の比率。9・4%で、世界百八十八カ国のうち百三十七位。

 ○管理職のなかでの女性の比率。30〜50%の国が多いなかで、日本は9%。

 だから、監督役の三つの国際機関からは、毎年多くの批判が集中しています。それも、個々のことではなく、根本の姿勢を問うような重大な指摘が多いのです。いくら国際批判を受けても、本気で是正に取り組もうとはしない。こういう状態が長く続いています。

 なぜ、日本では、女性差別が根強く残っているのか。不破氏は、その根本にある日本社会の異常さに話をすすめました。

 根本の原因は、日本が利潤第一主義を最優先にする企業社会だということです。

 不破氏は、世界のルールとなった差別撤廃の原則にたいして、“面従腹背”の態度ですまし、自分の企業内の体制を条約にそってただす意欲をかけらも持たない大企業の姿勢と、その代弁者になって、条約締結国としての推進義務を何一つ果たそうとしない日本政府の姿勢の異常さを、きびしく告発しました。

 同時に、日本の政治のもう一つの異常さとして、「侵略戦争とその時代をよしとする“靖国派”が、その反動的応援団という役割をはたしている」ことを指摘しました。彼らは、国連の諸機関から勧告されている民法の差別規定の是正にも反対し、はては「国連が家庭をこわす」との叫びまであげ、女性差別撤廃の世界の流れに公然と反旗をひるがえしています。企業社会と日本の政治のこの現状に、差別温存のいちばんの根っこがあるのです。

男女平等社会の実現のために

 「日本を変革していく立場で、この問題とその解決をどうとらえるべきか」。不破氏はこう述べて、現状打開の道の問題に話をすすめました。

 日本共産党の綱領は、当面の課題である日本の民主的改革の柱の一つに、「ルールなき資本主義」をのりこえて「ルールある経済社会」をつくることをあげています。女性差別の撤廃は、この「ルールある社会」づくりの大事な焦点をなす問題なのです。

 不破氏は続いて、「この運動をすすめる“戦略戦術”をよく考えることも大事」と述べて、注意する必要のあるいくつかの問題を提起しました。

 不破氏がそこであげたのは、(一)世界の現状や流れを知らせることをはじめ、この問題の意味を多くの男性・女性に理解してもらい共感を広げる「啓発」活動が重要なこと、(二)「ルールなき資本主義」は日本社会の諸階層の全体をいためつけており、この問題は、その性格からいって、全社会的な共同闘争の一環をなす位置を持っていること、(三)男性支配という古い社会をただす運動だが、「男性との闘争」で実現されるものではない、男性と協力して社会全体の力で社会をつくりなおしてゆくというのが大方針になる、育児での協力の問題一つとっても、男性が長時間過重労働でしめつけられている状態では解決がはかられない、この問題は男性がゆとりのある仕事のルールをかちとることにも結びついていること、(四)ヨーロッパで保守党政府のもとで実現できたことも、日本の自・公政権のもとでは実現できない、この問題は本気で展開すれば本当の民主政権の問題に発展してゆく性質を持っていること、などです。

 最後に、不破氏は少子化問題をとりあげ、そこに日本という国と民族の衰退の危険が示されていること、ヨーロッパ諸国も共通の危険にぶつかってきたが、差別撤廃条約以後、「女性が働きながら子どもを生み育てられる社会」づくりに取り組むなかで、少子化の克服の展望を見いだしつつあること、そのなかで日本だけが、はてしない出生率の低落という道を無策のまま進んでいることを、世界各国の動きを示すグラフを示しながら、詳しく説明しました。

世界と日本を動かす主役として

 「日本の女性問題は深刻だが、日本の女性も社会もそれを解決する力と条件を持っている」と述べた不破氏は、その条件の一つに、設立以来四十六年の歴史を持つ「新日本婦人の会」の存在と活動をあげ、「“岡目八目”だが」としながら、不破氏が注目しているこの組織の特質を四つの点で強調しました。

 第一。女性のあらゆる要求をかかげてたたかう運動体であること。

 第二。二十万の会員と三十万の読者、一万の班と二万の小組、生活に密着した草の根の組織を持っていること。

 第三。国連NGOの資格を持ち国際活動でも有力な立場に立つ組織であること。

 第四。女性の社会活動の困難な日本で、女性がここを通じて視野や能力を広げ、自己を発展させる貴重な場となっていること。

 最後の点を述べたとき、不破氏が「私たちはこの会のこの特徴から大きな恩恵をうけている。いま日本共産党の地方議会での女性議員は千七十五人だが、調べてみたら、そのうち千三十七人が新婦人で活動してきた人たちだった」と話すと、会場から歓声があがりました。

 不破氏は、新しい力が日々起こる二十一世紀の世界の情勢を説明したあと、最後に、参加者にこう呼びかけました。「女性が地位を取り戻し、男性と女性が同じ資格を持って世界と日本を動かす『女性の世界史的復権』の時代に、世界は入りつつあります。その時代の主役として、それにふさわしい力を発揮してください」。参加者は大きな拍手でこたえました。


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