2008年9月1日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
もういらない 無駄なダム
不要な道路や港湾の建設など無駄な公共事業の見直しを求める声が強まっています。北海道と岐阜県での無駄なダム事業見直しへの例を紹介します。
洪水10年で5回 漁獲量減る
北海道 沙流(さる)川水系
沙流(さる)川は北海道日高支庁管内の日高町、平取町を流れる全長百四キロメートル、流域は上・中流に泥岩や砂岩が多く浸食・地滑りが起こりやすい地層です。読んで字のごとく“砂が流れる川”で、もともとダムを造ってはならない川なのです。
崩壊した開発
沙流川水系に二風谷(にぶたに)ダムと平取(びらとり)ダムをつくる計画が持ち込まれたのは一九六九年。日本中が開発ブームに沸いた中での「苫小牧東部大規模工業開発計画」に工業用水を供給するためというものでした。苫東開発は無残に崩壊しましたが、二風谷ダムは「治水」に名目を変えて一九八六年に着工、七百四十一億円(当初予算五百億円)もかけて一九九四年に完成しました。
今、二風谷ダムは、ダムにたまる土砂などは百年は大丈夫といっていたものが十年もたたないうちに想定(五百五十万立方メートル)の二倍になっています。「治水のため」も二年に一度の割で大水害が起こっています。堤防の樋門(ひもん)も閉めないでダムの泥水を放水し、甚大な被害を下流住民や漁民にあたえ続けています。
北海道開発局は、さらに巨大なコンクリートを打ち込もうというのです。平取ダムです。建設費五百七十三億円(北海道の負担分八十六億円)といいますが、“鉄もセメントも油も高騰している時、予算の二倍かけてもできないのではないか”との声すら出ています。
堆砂と酸欠水
平取ダムは「治水」どころか、一年に一回、ダムを堆砂もろとも空にする排砂ゲート方式にするといいます。この方式はヘドロ混じりの土砂と酸欠水を一気に放出するので、ダムの下流は数年で死んだ川になるでしょう。百害あって一利もない無駄なダムの建設を黙って許すわけにはいきません。
二風谷ダムができてからの十年間に五回も洪水被害にあい、裁判闘争を続けている「沙流川被害者の会」の中村正晴さんは「無駄な公共事業、ダムはもういらない」と怒りを込めて語ります。ダムができたために下流はシシャモもサケも遡上(そじょう)しなくなり、タコ、ナマコなどの前浜漁は漁獲量が減少しています。
一九七〇年代まで清流であった沙流川が「百年河清を待つ」ような濁った川にされました。六月に、地元住民や全道の自然保護団体など五十人が参加し二ダム問題の学習会が開かれ、五月には、札幌から青年学生二十五人が「ムダな公共事業見学ツアー」で訪れ、私が案内・説明をしました。これ以上ふるさとの川と自然の破壊を許さないためにがんばります。(平取ダム建設問題協議会・松井和男)
沙流川流域 今もアイヌの人たちが住み続けており、アイヌ文化を次代に継承する重要な地域です。宮本百合子が19歳の夏、「民族的滅亡においこまれているアイヌのことを書く…」として訪れたのは平取村二風谷でした。
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「環境改善」口実だが…
岐阜 木曽川水系連絡導水路
六億六千万トン、浜名湖(静岡県)の二倍の貯水量がある岐阜県の徳山ダムは、この四月に満水を迎え試験放流をしました。
徳山ダム水を
今から半世紀も前、一九五七年に岐阜県揖斐(いび)川上流が電源開発促進法に基づく調査地区に指定され、七三年にダム建設が決定しました。工業発展や人口増加を見込んでのことでした。
ダム本体は二〇〇七年に完成。しかし今、水を大量に使う工場は、繊維業の不況などで撤退こそすれ進出はありません。岐阜県にはすでに、治水分のダム建設費四百十五億円の負担があります。利水分は、県内では水を買う企業も自治体もないため、一般会計から毎年二十三億円を今後二十三年間、水資源機構に返済し続けなくてはなりません。
県議会では、民主党を含めオール与党体制で知事提案はすべて容認。日本共産党は一議席ですが、県民の暮らし・福祉を圧迫する無駄遣いの予算支出には、きっぱり反対しています。
さらに無駄遣いを重ねようとしています。予算総額八百九十億円の「木曽川水系連絡導水路事業」です。徳山ダムを含め揖斐川にあるダムの水を木曽川まで持っていくために、約四十キロメートルのコンクリート管を地下トンネルとして建設しようというのです。
愛知県や名古屋市の都市用水の供給のためというのが口実です。しかし、これほどまでして水を確保しなければならないような水不足状態はありません。そこで国は、「河川環境の改善」のために長良川や木曽川にも揖斐川の水を流すと言い出したのです。(ルート図参照)
今、国交省は必死になって「環境改善」の材料を集めていますが、皮肉なことにその諮問機関である「木曽川水系連絡導水路環境検討会」における中間報告でも、「ダムでたまった、違う河川の水を合流させても、その影響が小さい」と、積極的な環境改善にはならないことを露呈しています。
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水温差は7度
八月に「長良川に徳山ダムの水は要らない市民学習会」が、揖斐川の取水予定地と長良川の水温調査をしましたが、その差は七度もあり、やっぱり「冷たく濁った水が長良川に来る」と危機感を強めました。
初めは「工業用水」や「水道水」、その需要が見込めなくなれば今度は「環境改善」と、都合よく理由付けをして結局、多額の無駄な工事をやり切ってしまう。こんな公共事業のあり方は根本から変えなければならないし、そのために運動を強めていきたいと思います。(岐阜県議・大須賀しずか)
旧徳山村が廃村 徳山ダム建設のために、466戸522世帯が転出を余儀なくされました。今も移転先の地盤沈下のトラブルや個人所有の山林への立ち入りができない問題での訴訟など、完全解決には至っていません。