2008年8月26日(火)「しんぶん赤旗」
海自隊員自殺
上司の言動は違法
国に賠償命令
福岡高裁
海上自衛隊佐世保基地(長崎県佐世保市)の護衛艦「さわぎり」(三、五五〇トン)の艦内で一九九九年に三等海曹=当時(21)=が自殺したのは上司のいじめが原因として両親が国に謝罪と損害賠償を求めている訴訟の控訴審判決が二十五日、福岡高裁でありました。牧弘二裁判長は上司の言動と自殺の因果関係を認定、否定した一審判決を変更し、国に対し三百五十万円の賠償を命じました。
判決は、「国家公務員が職務上、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として国家賠償法上違法である」としたうえで、直属上司の言動を「指導の域を越える違法なもの」と認定しました。
さらに直属上司は国に代わって隊員に対する安全配慮義務を果たすべきところ、「逆に侮辱的な言動を繰り返したもので、この義務に違反した」とし、上司の言動と自殺の因果関係を「認められる」と断定しました。
原告側が主張した軍事オンブズマン制度の創設は棄却しました。
自衛隊員の自殺で自衛隊に管理責任があることを認める判決は初めて。毎年百人前後の自殺者が続出する自衛隊に対し、本格的対応を迫る司法判断です。
原告弁護団は「審理での証拠調べや原告らのメモをしっかりと受けとめ、判決では、自殺した三曹の脆弱(ぜいじゃく)な性格との国側の主張も『安定した性格』と正面から切り返し、国の安全配慮義務違反を認定したものとして恐らく初の画期的な判決」と評価しました。
息子の無念に応えた
「被控訴人(国)は隊員の父に百五十万円を、母に二百万円をそれぞれに支払え」―。二十五日、自衛官いじめ自殺事件の控訴審で裁判長が判決主文を読み上げると、原告席の母親(60)はハンカチで目頭を押さえておえつし、隣の女性弁護士と抱き合いました。
支援者の一人として証人にも立ち、「さわぎり」でのいじめがきっかけで退職した元自衛官(34)も「自衛隊の不法行為が一部でも認められた。うれしい」と目を真っ赤にはらして話しました。
海上自衛隊での「いじめ」が原因でうつ病になり、神奈川県内で電車にひかれて死んだ息子=当時(24)=の父親(60)もかけつけ、「よかった。この判決に励まされ、全国で声があがるとよい」と判決をかみしめていました。
福岡市内で開かれた報告集会には百五十人がつめかけました。
弁護団の福留英資事務局次長が「(自殺した三曹の)人生がこのような判決文を残してくれた」と言葉をつまらせながら報告すると、参加者からすすり泣く声が漏れました。
あいさつに立った原告の母親は「今日の判決で親として、(息子の思いに)応えられたような気がします。(自衛隊には毎年百人もの自殺者が出ていて)まだまだやらなければと思います」と語り、大きな拍手に包まれました。
解説
戦争する部隊の体質
毎年百人前後の自殺者が続出している自衛隊。これまで、隊内のいじめが原因だとして国に賠償請求を求めている訴訟は今回の福岡高裁のほか、横浜地裁、静岡地裁浜松支部の三件。しかし、自殺した本人が「いじめが原因」と遺書に書き残していても、自衛隊側が「いじめはなかった」などと否定するケースは後を絶ちません。
海上自衛隊の護衛艦隊司令部幹部は内部の会議で公然とこう述べています。
「学校で嫌いな先生を辞めさせるためには、わざと殴らせるように仕向ければいいことを知っている者がいる。それを逆手にとって殴らせるように仕向ける隊員がいるのも事実であり、優秀な隊員が処分をもらうのはもったいない」
この発言は「私的制裁」についてのものですが、今回判決で問われた「いじめ」に対する自衛隊上層部の本音が見てとれます。
その本音は、アメリカとともに世界の紛争に自衛隊を投入する海外派兵にむけ、「精強」「任務必遂」をスローガンにする「戦争する自衛隊」の危険な体質とつながっています。
複数の元自衛隊幹部も共通して「いじめなどがくりかえされる不祥事も憲法違反の海外派兵の動きと無関係ではない」と指摘しています。
「直属上司」に限定したとはいえ、隊員の安全配慮義務違反を認定した意義は大きく、原告らが主張する「再発防止策」としての軍事オンブズマンの創設を迫る世論による包囲が求められます。
あわせて、憲法違反の海外派兵を許さないことが、最大の再発防止策でもあります。(山本眞直)