2008年8月23日(土)「しんぶん赤旗」
米原子力空母G・ワシントン出航
火災事故 放射能漏れ 殺人事件
政府の“安全神話”崩れる
配備許されない
五月の火災事故により米海軍横須賀基地(神奈川県)への配備が延期されていた米原子力空母ジョージ・ワシントン。米カリフォルニア州サンディエゴでの修理をへて、二十一日(日本時間二十二日)に横須賀に向けて出航しました。火災事故後も、米原子力潜水艦の長期にわたる放射能漏れの発覚、同空母乗組員の殺人・暴行事件など、米原子力艦船の不祥事が続出。米軍や日本政府が宣伝してきた米原子力軍艦の「安全神話」は完全に崩れています。(洞口昇幸)
G・ワシントンは当初、今月十九日の横須賀配備を予定していました。しかし五月二十二日、日本に向けて太平洋上を航行中に船尾の「補助ボイラー室」からの火災事故を起こし、横須賀配備は延期になりました。
米軍は事故から二カ月以上もたった七月三十日に、乗組員の「無許可の喫煙」が火災原因だと発表しました。無人の補助ボイラー室で無許可の喫煙を行い、「不適切に置かれた可燃性物質(冷凍圧縮機用の潤滑油)」に引火して火災が起きたといいます。
一人が重度の火傷、三十七人が負傷、艦内の三千八百区画のうち約八十区画が燃える大きな被害が出ました。修理には「五万五千人日」、つまり一日の一人あたり作業量の五万五千人分を要しました。しかし独立機関による調査もなく、事故の真相は依然として全面的に解明されてはいません。
八月一日には米原子力潜水艦ヒューストンが今年三―四月に長崎佐世保基地に寄港した際に艦内から放射性物質を含む水を漏らしていた可能性があることが判明。八月六日には、二〇〇六年六月から今年七月までの約二年間にわたり、放射能を含む冷却水が漏れていたという驚くべき事実がわかりました。
さらに、G・ワシントンが出航する直前の十六日、同空母の乗組員がサンディエゴ南部で殺人と暴行の容疑で逮捕される事件が起きました。同空母の横須賀母港化への不安が、ますます高まっています。
2年間も漏れ
米海軍と日本政府はこれまで、「原子力空母は安全」という唯一の根拠として、〇六年四月に米国が日本へ提出した文書「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」をあげてきました。
ファクトシートは、「日本国の港も含め、沖合十二海里以内において、一次冷却水を含む液体放射性物質を排出することを禁じている」と述べ、米原子力軍艦がこれまで一度も放射能漏れを起こしていないと主張しています。
しかし、二年間にも及ぶ原潜の放射能漏れで、この主張は成り立たなくなりました。
ファクトシートはまた、「原子力軍艦の乗組員は、十分に訓練を受けており、船上のいかなる緊急事態にも即時に対応できる十分な能力を有する。海軍の作業手順及び緊急事態の手続きは、明確に規定され、厳格に実施されている」と明記しています。
ところが、これも、艦内乗組員による多重の規則違反が原因の火災事故や、「十分に訓練を受けた」はずの乗組員の殺人・暴行事件が起こり、ファクトシートの内容は全くのウソであることが証明されました。
にもかかわらず、G・ワシントンのジョン・ヘイリー艦長は八月七日のサンディエゴでの記者会見で「本当に原子力空母は安全なのか。安全だという根拠は?」との質問に対し次のように答えました。「米海軍は多額の金と時間を費やし、われわれの水兵に正しい行いをし、正しいことをする知識を持ち、どのように船を運用するか教育している」。日本国民の懸念を全く理解しない“官僚答弁”に終始しました。「ヒューストンやG・ワシントンの人的ミスで横須賀の市民は過敏になっているが?」との質問には、「人的ミスという言い方には同意しない。安全基準をわれわれは持っている」と開き直りました。
深刻な核被害
地元横須賀の市民からは、「事故や放射能漏れの真相が究明されない限り原子力軍艦を日本に入港させるな」の声が高まっています。六月に「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」が行ったアンケート(八百十九人が回答)では、「配備に不安がある」が70%、配備に「反対」「どちらかと言えば反対」は合わせて70・6%という結果になりました。
七月十三日に同市ヴェルニー公園で開かれた集会には三万人が集まり、原子力空母配備と米軍基地の再編・強化に反対しました。あいさつした日本共産党の志位和夫委員長は、原子力空母母港化の危険として(1)核事故の危険(2)「殴りこみ」機能の強化(3)基地の恒久化(4)米軍犯罪の拡大―を指摘しました。
ひとたび原子炉の大事故が起きれば首都圏三千万人が深刻な核被害を受けます。アフガニスタン戦争、イラク戦争で市民、女性、子どもへの無差別攻撃に参加した「血まみれ」の原子力空母G・ワシントンの横須賀配備は許されません。
米原子力艦船をめぐる最近の動き
4月7日 原子力空母G・ワシントンが日本に向けて出航
5月22日 G・ワシントンの艦内で火災が発生
27日 G・ワシントンがサンディエゴに緊急寄港
28日 通常型空母キティホークが横須賀を出港
6月6日 米海軍、G・ワシントン火災で艦内の3800区画のうち80区画損傷と発表
7月30日 米海軍、G・ワシントンの火災の原因は喫煙と発表
8月1日 原潜ヒューストンが日本寄港時に放射能漏れを起こしていたことが判明
6日 ヒューストンの放射能漏れが06年から続いていたことが判明
19日 G・ワシントン乗組員含む米兵2人が殺人容疑で逮捕
21日 G・ワシントンが日本に向けて出航
(日付はすべて現地時間)
|
■関連キーワード