2008年8月23日(土)「しんぶん赤旗」

主張

裁判権資料隠ぺい

密約の後ろめたさゆえにか


 犯罪を起こした米兵への日本の裁判権を不当に制限した日米密約の内容を盛り込む法務省資料を、同省が五月になって国会図書館に圧力をかけ、閲覧禁止にさせていたことが明らかになりました。

 問題の文書は一九七二年三月に法務省刑事局が作成した「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」です。米兵の犯罪処理にあたって特権的な扱いをするよう、全国の検事長と検事正に指示したマル秘文書です。日本の裁判権を事実上放棄したうえ、行政から独立した国会図書館に圧力をかけ、閲覧を禁止させたことは絶対に許されません。

国民の知る権利を侵害

 法務省は、国会図書館に閲覧禁止を求めた理由として、外国との信頼関係に影響を及ぼすなどをあげていますが、これは通用しません。資料そのものは国会図書館が二十年近くにわたって公開してきたもので、今年になって改めて密約の存在が問題になってあわてて「閲覧制限」を求めたというのが経過です。まさに密約の後ろめたさゆえに、政府に都合の悪いものを閲覧させるなという、国会図書館に対する乱暴な干渉です。

 国立国会図書館は、国会の審議のために資料を集め提供するとともに、国民にも資料を利用させることを任務とする国会の付属機関です。国会図書館法は、「党派的、官僚的偏見に捉われることなく」議会に資料を提供することや、資料を「国民が最大限に享受することができるようにしなければならない」と明記しています。閲覧禁止が、こうした法律にも違反するのは明らかです。

 国際問題研究者の新原昭治氏の調査や「しんぶん赤旗」などの報道で明らかになった米兵の刑事裁判権に関する日米密約は、米軍地位協定が「公務中」の米兵の犯罪は米軍に裁判権があるが「公務外」の犯罪は日本が一次裁判権を行使すると明記しているのに、それさえふみにじって日本が裁判権をできるだけ行使しないようにするとした屈辱的な約束です。

 一九五七年十一月のアイゼンハワー米大統領への世界の米軍基地問題での極秘報告書「ナッシュ・レポート」は、「秘密覚書で日本側は、日本にとり著しく重大な意味をもつものでない限り、一次裁判権を放棄することに同意している」と明言しています。

 法務省マル秘資料にある五三年の刑事局長通達も、「実質的に重要であると認める事件についてのみ」一次裁判権を行使するのが「適当」とのべています。通達は日米密約を実施するための指示文書にほかなりません。

日米密約を破棄せよ

 米軍基地のある地域住民は、米兵による犯罪の危険を常に強いられています。政府・法務省が米軍を優遇し甘やかしている限り、米軍犯罪はなくなりません。

 「公務外」の犯罪でも、「公務中」犯罪とみなして米軍任せにするやり方を法務省の通達は指示しているため、交通事故の処理でも捜査に支障をきたしていると沖縄県の監査報告が指摘するほどです。

 犯罪の危険を押し付けられている国民が、日米密約とそれを具体化している法務省の文書を知ることは当然の権利です。政府は裁判権放棄の日米密約を破棄し、裁判権行使にかかわる全容を明らかにすべきです。


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