2008年8月18日(月)「しんぶん赤旗」
政府 ごまかし宣伝
「75歳超の医療費は5倍」というが…
1日当たり ほぼ同額
政府は、年齢で医療を差別する後期高齢者医療制度を正当化するため、「七十五歳以上の高齢者一人あたりの医療費は、六十五歳未満に比べると約五倍にもなる」(舛添要一厚生労働相、『中央公論』九月号)と盛んに宣伝しています。
まるで、高齢者が必要以上に医療費を「浪費」しているかのような印象を与えますが、実際はそんな単純な話ではありません。
一人当たりの医療費は、「一日当たりの医療費」、「一件当たりの受診日数」、「受診率」の三つの要素で決まります。それぞれを、高齢者と若い人で比べるとどうなるでしょうか。厚労省のまとめた「老人医療事業年報」の二〇〇四年度の数字でみてみました。
「一日当たりの医療費」は、七十五歳以上は七十五歳未満と比べ、外来で一・一倍とほとんど変わりません。入院に関しては〇・九倍とむしろ七十五歳未満の人の方が医療費がかかっています。
病院にかかった人の「一件当たりの受診日数」でみても、七十五歳以上の高齢者は、入院と外来のどちらでも若い人の一・三倍で、それほど多くはありません。
大きく変わるのは「受診率」です。高齢者が、外来で二・六倍、入院で六・三倍でした。病院にかかっている人や入院している人の割合が、高齢者の方が多いということです。
しかし、これは決して、無駄づかいではありません。年を重ねれば、病気になる人が多くなるという事実を示しているだけです。
「五倍」かかるという宣伝は、政府・厚労省の常とう手段です。同省の高齢者医療制度施行準備室室長補佐として、制度を推進した土佐和男氏は「年間一人当たりの若人の医療費は大体十六万円だが、年間一人当たりの高齢者の医療費は七十七万円なので、約五倍の差がある」(『高齢者の医療の確保に関する法律の解説』)などと強調しています。しかし、その同じ著書のなかでは、「老人医療事業年報」などから数字を引用し、「一日当たり医療費」や「一件当たりの受診日数」には、高齢者も若い人も差がないことをはっきり記載しています。
「五倍」という数字を強調して、高齢者の医療費を削減するということは、高齢者にとって命に直結する費用を無理矢理削るということです。ましてや、都合のいい数字だけを抜き出して、“誇大”宣伝することは許されません。(小林拓也)
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