2008年8月14日(木)「しんぶん赤旗」

主張

米兵への裁判権放棄

国民苦しめる密約を破棄せよ


 「公務外」で罪を犯した米兵に対する裁判権を事実上放棄するよう、全国の検事長、検事正に指示していた法務省刑事局の通達が大きな問題になっています。

 重大な犯罪以外は日本が一次裁判権を放棄するという日米密約の存在は米政府の解禁文書であきらかになっています。法務省刑事局が一九七二年に作成したマル秘の検察資料にある五三年の刑事局長通達はこの密約に沿うものです。

 米軍地位協定で日本が行使することになっている裁判権まで放棄する政府の態度は異常です。政府・法務省の態度が問われます。

できる限り不起訴

 米軍地位協定は「公務中」の犯罪は米軍が、「公務外」の米兵の犯罪は日本が一次裁判権を行使すると規定しています。にもかかわらず、できるだけ米兵を起訴しないというのが政府・法務省の方針です。犯罪者を起訴するか否かを決定し、公訴を提起する権限をもつ検事にできる限り起訴するなというのは、法治国家としてあってはならない重大問題です。

 一九五三年の刑事局長通達は、「国際先例にかんがみ」裁判権行使には「極めて慎重な考慮を払わなければならない」とのべたうえで、「実質的に重要であると認める事件についてのみ」一次裁判権を行使するのが「適当」とし、「実質的に重要でない」ものは起訴しないよう指示しています。

 これはまさに日米密約の内容そのものです。アイゼンハワー米大統領への世界の米軍基地問題での極秘報告書「ナッシュ・レポート」(五七年十一月)には、「秘密覚書で日本側は、日本にとり著しく重大な意味を持つものではない限り、一次裁判権を放棄することに同意している」とのべています。

 日米密約の結果、一次裁判権不行使などの放棄率は、五四年には95%、七一年も75%にのぼっています(国際問題研究者の新原昭治氏の調べ)。現在では不起訴率がやや下がっているとはいえ、米兵優遇の基本は変わっていません。

 二〇〇七年に検察当局が受理した米兵の被疑事件の数は約九百件、このうち起訴猶予を含めた不起訴は五百二十九件です。不起訴率が約59%というのは、日本国民も含めたここ数年の不起訴率50%前後からみても高い数字です。

 起訴率は40%程度とはいえ、米兵を裁判にかけることを求める公判請求率はわずか2%です。全国平均6%強に比べあまりにも低い数字です。圧倒的部分は略式命令請求です。できる限り裁判にかけない、起訴しても軽い処分ですませるという政府方針が、いまも貫かれているのはあきらかです。

 米兵による犯罪を起訴しない、あるいは軽い処分ですますというのは、被害を受けた日本国民に泣き寝入りを強いるのと同じです。日米密約は、文字通り国民を苦しめるものです。とうてい許されるものではありません。

主権を守ってこそ

 通達は、「公務中」の範囲を拡大するなど一次裁判権を放棄するさまざまな手法を示しています。犯罪がなかったことにするというやり方もあるとの指摘もあります。日本政府が米軍犯罪を助長しているのは明白です。

 主権を擁護してこそ日本国民を守れます。政府は裁判権放棄の日米密約を即刻破棄すべきです。



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