2008年8月2日(土)「しんぶん赤旗」
財界が狙う 保育改変
「市場化」で子どもどうなる
いま、保育制度の大幅な見直しが検討されています。狙いは何か。子どもたちへの影響は―問題点を考えました。(坂井希)
「長年の懸案がある保育サービスに係る規制改革については…年内に結論を出してほしい」。福田康夫首相は四月二十三日の経済財政諮問会議で、異例の発言をしました。
ほかにも、政府のさまざまな審議会などが保育制度の改変を要求しています(表)。当面の焦点は「入所方式の変更」と「設置基準の見直し」です。
直接契約
サービス カネ次第?
入所方式は、市町村が入園先や保育料の決定に責任を持つ現在の方式から、利用者と園との「直接契約(直接入所)」方式への変更が検討されています。
「直接契約」では、行政の責任は大きく後退します。現在は所得に応じて決められる保育料も、園側の経営状況などの事情で決められることになります。「○時間利用でいくら」「給食はいくら」と、サービスが細切れになることも考えられます。“保育の中身もカネ次第”となる恐れがあります。
施設などの最低基準撤廃
低水準 歯止めなし
保育所の施設面積や職員配置などの全国一律の最低基準の撤廃は、政府の地方分権改革推進委員会(委員長=丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)などが求めています。国は標準を示すにとどめ、地方が独自に設定できるようにすべきだとしています。
現在の最低基準は一九四八年に作られたもので、今日から見れば極めて低い水準です。この基準までなくしてしまえば、歯止めがなくなります。財政状況により、地域間格差も生まれかねません。
企業参入
新たなもうけ口に
制度改変の狙いは、保育を「市場化」し、営利企業のもうけの場にすることです。
厚生労働省が企業に認可保育所の運営を認めたのが二〇〇〇年三月でした。〇三年六月には公の施設の管理運営を株式会社でも行える指定管理者制度が導入されました。財界は、保育分野の潜在的市場規模を二兆円と試算するなど、新たなもうけ口の出現に沸き立ちました。
しかし、その後は財界側の思惑通りには進んでいません。政府の規制改革会議(議長=草刈隆郎日本郵船会長)は、「(保育所が)株式会社立となる事例はごくまれ」「株主への配当が制限されるなど、参入の大きな障害となっている」「阻害要因を早急に取り除くべきである」(七月の中間とりまとめ)などと露骨に要求しています。
東京都の事例
食材費1人1日数十円
国より低い基準で東京都が開設した認証保育所では、もうけを優先し、保育の質を切り下げる例が出ています。企業立のある園は、食材費を一日一人数十円に抑えていました。給食には百グラム十円の鶏肉や見切り品の野菜を使い、おやつは卵ボーロ数粒などという実態でした。
日本経団連は「東京都の認証保育所を参考にした仕組みを導入すべきだ」と求めています。しかし、保育の場に営利主義がはびこれば、犠牲になるのは子どもたちです。
反対の声 立場超え広がる
一方、制度改変反対の声が立場の違いを超えて広がっています。
全国保育団体連絡会が六月に国会に提出した「直接入所方式の導入反対」「最低基準の抜本改善」を求める請願書は、衆参両院で全会一致で採択されました。全国保育協議会(全国の認可保育所の93%が加盟)は同月、「市場原理による『直接契約』導入に反対」などの緊急提言を発表。全国私立保育園連盟(約六千八百の私立認可園が加盟)も、「最低基準を廃止し、自治体ごとの条例による独自基準に切り換えることに反対」とのアピールを発表しました。
二日からは東京で第四十回全国保育団体合同研究集会が開かれ、四日には「保育制度解体許すな! 8・4厚労省前緊急大集会」も予定されています。
保育をめぐる提言と主な内容
【2007年】
11月20日 日本経団連 提言「子育てに優しい社会づくりに向けて」
面積基準・職員配置基準等の柔軟な対応、認可保育所における直接契約の容認
【2008年】
5月20日 社会保障審議会少子化対策特別部会 とりまとめ
「新しい保育メカニズム」に基づく新しい保育サービスの提供の仕組みを検討
5月28日 地方分権改革推進委員会 第一次勧告
直接契約方式の採用、全国一律の最低基準見直し