2008年7月29日(火)「しんぶん赤旗」
日雇い派遣原則禁止
厚労省研究会報告
規制強化へ転換
厚生労働省の「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」(座長・鎌田耕一東洋大学教授)は二十八日、日雇い派遣の原則禁止など規制強化を盛り込んだ報告書をまとめました。一九八五年の制定以来、規制緩和が続いてきた労働者派遣法は、抜本改正を求める世論が広がるなかで規制強化へとかじを切らざるをえなくなったものです。
厚労省はこのあと、三十日から労働政策審議会で議論し、十月はじめにも法案を国会に提出する予定です。
報告書は、派遣労働は「雇用の安定、待遇の改善、違法派遣への対処で課題がある」と指摘。「常用雇用の代替防止を前提として臨時的・一時的な労働力需給調整システム」の位置づけは維持しつつ、事業規制と労働者保護の両面から対策を講じるべきだとしました。
日雇い派遣については「労働者保護の観点から禁止すべきである」と指摘。危険度が高い業務などを禁止対象とし、禁止期間は、日雇い派遣に関する厚労省指針が「三十日以内」を対象としていることを参考に短期雇用についても禁止するよう要請しています。
違法派遣に関与した派遣先に対し、労働者に雇用契約を申し込む義務を課し、行政が直接雇用を勧告する制度を設けることを提起しました。
派遣会社をつくってグループ内に派遣するやり方も、正社員を派遣会社に転籍(解雇)させるなど「労働条件の切り下げが行われている」として、派遣割合の上限を設け、解雇後の一定期間は禁じるべきだとしています。
仕事のあるときだけ働く「登録型派遣」については、「選んで働いている労働者も多い」として禁止は不適当としましたが、派遣先への常用雇用などを促進するよう言及。ピンはね防止のためのマージン率(派遣会社の手数料)の上限規制は見送りましたが、個別に説明を義務付けました。
一方、常用雇用の代替防止措置である「雇用契約の申し込み義務」については、常用雇用型派遣については雇用が安定しているとして外すとしました。
派遣法報告 規制強化へ
世論と運動を反映
「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」(厚労相の諮問機関、座長・鎌田耕一東洋大学教授)が二十八日に出した報告書は、規制緩和から規制強化に転じるものであり、派遣法の抜本改正を求める労働者・国民の世論と運動の反映です。
派遣法は一九八五年に制定。「臨時的・一時的業務に限定し、常用雇用の代替としない」ことが原則とされました。ところが、九九年の原則自由化、〇四年の製造業解禁と相次ぐ規制緩和によって、正規労働者を派遣労働者に置き換える動きがすすみ、低賃金の不安定雇用が増大しました。
「ワーキングプア」(働く貧困層)や偽装請負が社会問題となるなかで、労働組合や野党など各層から派遣法改正を求める声が上がり、政府・与党も日雇い派遣の原則禁止を言わざるをえないもとで、規制強化へかじを切ることになったものです。規制強化へ向かう「潮目の変化」と呼ぶべき情勢の進展を改めて示しています。
勧告制度は前進
同時に報告書には問題点もあります。
非人間的な日雇い派遣や三十日以内の短期派遣を原則禁止することは当然ですが、それを生み出している「登録型派遣」(仕事のあるときだけ働く)にはメスが入っていません。
首切り自由の使い捨て労働をなくすために「登録型派遣」を増大させた一九九九年の原則自由化以前に戻すことが求められます。常用型派遣(常用雇用)を原則にして、登録型を厳しく制限しない限り解決できません。
大企業が偽装請負をしても何の責任も問われないもとで、違法行為があれば、派遣先の企業が雇用契約を申し込むように、行政が勧告する制度を設けることは一歩前進です。
しかし、強制力がなく、企業が従わないことも可能です。直接雇用にしても期間工など不安定な有期雇用にとどめることを禁じておらず、雇用を守る保障には不十分です。
偽装請負で働かされていた松下プラズマ事件では、大阪高裁判決が、派遣先と労働者の間に「黙示の雇用契約が成立している」として派遣先に直接雇用を命じました。
こうした判決もふまえて、派遣先と労働者の間に雇用契約が成立しているとみなす「みなし雇用」制度を導入して、雇用を守ることが必要です。
抜本改正が必要
派遣法改正をめぐる議論は、労働政策審議会に議論の場は移りますが、カギを握るのは世論と運動です。財界による抵抗をはねのけて派遣法改正の流れをつくり出したのは世論と運動でした。「潮目の変化」を小手先の見直しにとどめず、抜本改正に実らせるたたかいはこれからです。(深山直人)
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