2008年7月28日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
自立支援法抜本的に見直して
障害者へしわ寄せ
障害者自立支援法が施行されて二年余、障害者へのしわ寄せ、施設運営への圧迫がひどくなり、同法の抜本的見直しを求める声が強まっています。
事務負担増え休日出勤も
名古屋
名古屋市天白区で活動する「共同作業所ほっとはむ」は、二十代中心の身体・知的障害者四十二人が、区内四つの作業所で弁当やクッキー、パンづくりを行っています。
飯田幹雄施設長は「利用者には、利用料一割負担とともに、給食の実費負担も重くのしかかっている」といいます。
同作業所では現在、利用者のほとんど(三十七人)が低所得者向けの給食費負担軽減措置(四百二十円を補助)が適用され、一食三百円を負担しています。それでも、一カ月働いて得る一万二千円足らずの工賃は、ほとんど手元に残らず、通所日数を減らした利用者もいます。利用者の通所率は生活介護事業が85%、就労継続支援事業B型は90%です。
施設収入は、低すぎる報酬単価に加え、報酬が利用日の日払い計算になっていること、さらには授産事業においても小麦粉、乳製品などの原料費高騰で、きわめて不安定な状況です。定員を上回る利用を認めた国の規制緩和について、飯田氏は「経営上はメリットがありますが、その分利用者へのケアが薄くなるため、今(定員を二人超過)以上に増やしたくありません」と対応は慎重です。
利用者の通所日数管理や利用料の上限管理(複数の事業所を利用する人が上限額を超えないよう調整)などのために、事務負担が激増し職員は五月の連休も出勤を余儀なくされました。
あいされん(きょうされん愛知支部、小川春水支部長)はこの間、応益負担の廃止などを求めて他団体と共同で県民集会やシンポジウムを開催。昨年末には、寒空のもと県庁前でのマラソン・スピーチをおこない、「がんばるDAY」宣伝にも取り組んできました。
国会請願署名は九万三千人に賛同が広がり、五月末に国会要請を実施。佐々木憲昭日本共産党衆院議員とも懇談しました。
中川区内で五つの精神障害者施設「明正作業所」を運営している、小山千ひろ・あいされん副支部長は「運動の力で大幅に改善されましたが、障害実態に合わない就労移行を前提にした同制度、日割り単価、職員の労働条件向上など問題はたくさんあります。応益負担制度そのものを撤回させるため、引き続き運動をすすめたい」と語ります。(愛知県・広瀬幸男)
一般就労への道を広く
川 崎
「多摩川あゆ工房」は川崎市多摩区にあり、社会福祉法人「なごみ福祉会」が運営する障害者日中通所施設です。現在、定員八十人のところ合計八十七人の利用者が通所しています。
二〇〇七年度はかなりの赤字を覚悟しましたが、土曜、休日開所、国「緊急対策」の報酬の九割補償、川崎市独自加算などで、かろうじて収支バランスを保つことができました。しかし、施設の修繕積み立てなど不可能で、雨漏りなどはそのままです。
新制度で、六段階の障害区分に分けられました。それまで障害の軽重を問わず一緒に作業をしていましたが、障害区分2以下の「就労継続B型事業」と障害区分3以上(重い)の「生活介護事業」とに利用者を割り振ることになりました。
「就労継続型事業」は比較的障害が軽く外部就労が可能ということで報酬単価は安く、その部分が多くなれば施設収入は減ります。しかし、障害者を受け入れる一般就労先は少ないのが現状です「生活介護型事業」は報酬単価が高くなります。しかし、自己負担制度で利用者は負担が重くなるという不合理が生じます。
もう一つの悩みは、福祉現場の人材確保難です。採用募集しても応募がありません。ぎりぎりの職員配置なので研修にも出られません。また事務仕事の煩雑さも大変です。
(多摩川あゆ工房施設長・飯島克己)
切実な施設運営の安定
来年四月に、施行後三年をめどとした障害者自立支援法の見直しが行われます。
厚生労働省の介護保険制度との統合などの狙いを阻止し、障害者の暮らしを守る改善を実現するために頑張らなければなりません。併せて自治体の「地域生活支援事業」の改善を図ることが求められます。
同法は二〇〇五年十月に自民、公明二党の賛成多数で可決され、〇六年四月に一部、十月から本格施行されました。
制度改正の柱を整理すると、(1)障害者の施設利用に一割の自己負担を導入(2)事業主体を地方自治体に(3)自立支援給付事業(国の財政負担の義務化)と地域生活給付事業(地方自治体が柔軟に実施し、国の費用負担は予算の範囲)に分ける(4)障害程度を1―6に区分判定し、サービス内容を決める(5)施設への報酬単価の利用日払い算出―などです。
障害者自立支援法は「天下の悪法」「自立阻害法」と、障害者・家族・福祉関係者などから怒りがわき起こりました。同法施行に対し、障害者らが雨の中を国会へむけデモ行進し、東京・日比谷での「出直してよ!『障害者自立支援法』10・31大フォーラム」には一万五千人を超える人々が集まりました。
政府・厚労省は、〇六年十二月に「特別対策」で、〇八年度予算の「緊急対策」でそれぞれ改善に向け手直ししました。
しかし、障害者の「一割応益負担」、事業者報酬の「日払い」など制度の根本に手をつけず、事業所の経営難による閉鎖、施設職員の給与引き下げ、利用日数増など福祉施設の現状は悪化しています。
特に「地域生活給付事業」「無認可作業所」などへの対応には自治体の姿勢でアンバランスが目立ちます。自治体への要望とともに国の予算増が切実に求められます。
「応益負担」をやめ所得に応じて払う「応能負担」に、「日払い」も「月額払い」に戻し、報酬単価の引き上げなど施設の安定した運営ができるように内容の充実を図り真に障害者が地域で自立していけるように、同法の抜本的見直しが求められています。
(日本共産党自治体局地方議員相談員・市村護郎)
日払い 施設等への報酬計算が「月額払い」から「日払い」になり、利用者が施設を休むと報酬はゼロです。実家に帰ったり、宿泊旅行で施設を利用しないとその分報酬はカウントされません。他方、施設規模は月単位で全体として維持しなければならず、厳しい運営をしいられています。
応益負担 食事や入浴、外出など障害者が生きるために最低限必要な支援を「益」とみなして負担を課すもので、障害が重い人ほど負担が大きいという構造的欠陥のある制度です。
国の「特別対策」「緊急対策」 特別対策では低所得者利用料の軽減、施設へ激変緩和措置として、報酬の80%補償を90%に引き上げるなどを実施。緊急対策では利用料低所得者軽減上限額の引き下げ、施設支援は通所サービス報酬単価引き上げなどの手直しがされました。