2008年7月21日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
住宅瑕疵(かし)担保履行法 来年10月施行
消費者、営業 守るものに
滋賀/埼玉
3年前に発覚した耐震強度偽装事件をきっかけに消費者保護を目的にした住宅瑕疵(かし=欠陥、きず)担保履行法が来年10月1日から施行されます。これをめぐって建設業者や売り主、消費者からさまざまな声があがっています。滋賀と埼玉から中小業者のとりくみ、活動を報告します。
負担軽減へ学び運動
滋 賀
滋賀県では、民主商工会などが住宅瑕疵担保履行法の学習会を開いています。
「来年十月一日からの新築住宅の引き渡しに、保険に加入していなければ二千万円の供託金が必要です。忘れず保険契約を」との説明に、「なんでそんな制度を」と怒る人や、「一戸十万円前後になる保険料を建築価格に乗せられるだろうか」という不安の声が出ています。
講師をつとめているのは、県内長浜市で建築設計事務所を開いている三沢泰博さん(57)。今年四月、全国商工団体連合会(全商連)の国土交通省交渉にも参加してきました。
三沢さんは「欠陥住宅から消費者を救うしくみは必要です」といいます。住宅の欠陥が明らかになっても補修費用を確保していなければ、何の保証もないのと同じです。
建設業者は、かけ捨て保険か、法務局への供託金か選びます。中小零細業者は保険を選ぶしかありません。
「保険の場合は建設中に第三者機関の検査が入ります。供託金制度には検査がない」。三沢さんは「中小業者は補修、点検のアフターサービスで信用を得ている業者も多い。保険チェックも入ってさらに安心、とアピールできるチャンスかもしれません。しかし、公平ということをいうならば、保険料は軽減、供託金はなくすべきでしょう」と話します。
三沢さんの心配は、「住宅瑕疵担保履行法の制度が中小建設業者にほとんど知らされていない」ことです。大阪での説明会では参加企業は「大手ハウスメーカーとゼネコンばかり」でした。
近江八幡市での学習会では、「腕がよいだけではやっていけない。みんなで勉強しよう」「消費者とともに負担軽減の運動をしよう」の声も出ました。
三沢さんには、「打てば響く仲間」を実感できるときです。
県内では、近江八幡市での県商工団体連合会主催の学習会に続き、草津民主商工会、建築組合などが学習会を開いています。
(滋賀県・黄野瀬和夫)
業者仲間励まし合い
埼 玉
ガソリンや材料費の値上げで埼玉県内の中小業者は悲鳴をあげています。欠陥住宅への消費者保護を目的にした住宅瑕疵担保履行法で、また負担が増えると話題になっています。
その中身は、大手ハウスメーカーや大企業が優遇された内容で、町場の工務店は淘汰(とうた)されかねません。
町場工務店の良さは、瑕疵(欠陥)が発生した場合、日ごろから地域住民の住宅要求には、早急に対応できる身近な場所、地域で経営をしていることです。
大手住宅メーカーなどのアフターケアは、必ずしも十分とは言えません。結局、大手住宅メーカーが建てたお客さんの住宅相談は町場の工務店に舞い込んできます。大手住宅メーカーの仕事は町場工務店の仲間が請け負い、施工しています。
低単価・低賃金で請け負わせ、利益を上げるために通常では考えられない工期を設定させられます。
埼玉土建では、新築を手がける仲間に、この法律をよく理解するための学習会への参加を呼びかけ、とりくみをすすめています。夏から秋にかけて県内八カ所でお客さんの不安や声にも応えられるように、「保険のしくみ」などを多くの業者に広げていきます。
消費者保護の観点から法に対応せざるを得ない状況としても、建設労働組合として、「供託」と「保険」の不公平をただすことなどを関係機関へ要請をしていきます。
この法律が成立するとき業者の声が反映し、付帯決議に「運用に当たっては中小業者等の過大な負担とならないよう配慮すること」が明記されています。
県内で四十年以上営業している町場工務店主(65)は、「今回の保険金は物価高、原油高騰に追い打ちをかける負担になりそうです。仲間と励まし合い、学習会を開き、軽減をさせる活動をしたい」と話します。
住宅問題で地域住民の悩みや相談にこたえるために、「ホームドクターなび」(埼玉土建ホームページ)を八月からスタートさせます。
http://www.sumai−network.jp/
(埼玉土建・島野義人)
中小、零細へ対策強め
姉歯元建築士らによる耐震強度偽装事件で多くの分譲マンションが解体を余儀なくされ、居住者は従前ローンと建て替えマンションの二重ローンを抱えるという大変な被害にあいました。
このような被害を二度と起こさないために、不動産業者や建設業者などが瑕疵担保責任を果たすことができる制度、仕組みをつくるためこの法律ができました。
具体的には、業者に責任の実効性を確保するため新築住宅を対象にして保証金の「供託」か、「保険」への加入が義務付けられました。
その結果、資金力が豊富で供託制度を選べる大手業者には有利ですが、地元に密着し、技術力や実績によって信頼を得ている中小業者にとっては負担感が大きいものとなりました。
供託金の場合は、一戸当たり二千万円。住宅の供給数が多いほど供託金は大幅に減額されます。一方、供給数の少ない中小業者の場合は、かけ捨ての保険になり、一戸当たり保険料が八万円となる試算もあります。
法案審議のなかで参考人に招かれた和田勇・住宅生産団体連合会会長(積水ハウス社長)は、「(保険だけではなく)供託方式が加えられ、大変望ましい」と発言しています。
法案審議に当たっての日本共産党国会議員団の関係団体への意見聴取に、中小工務店などを組織している東京土建労組は、「消費者保護は大切です。しかし、過度な保険料の負担を軽減するための措置の充実が必要だ」と指摘。共同受注の運動を進めている受注連建設事業協同組合は、「保険に頼るのではなく、行政や銀行など住宅融資企業の責任を問える制度が必要」などと要望していました。
住宅着工件数の減少やガソリン、材料費の高騰で苦境にあえいでいる中小企業への対策を強め、この制度が本当に消費者保護につながるように改善することが求められています。
(日本共産党国民運動委員会・高瀬康正)