2008年7月17日(木)「しんぶん赤旗」

主張

「防衛省改革」報告

まるで火事場泥棒のようだ


 政府の「防衛省改革会議」(座長・南直哉東京電力顧問)は十五日、「不祥事の分析と改革の方向性」と題する報告書を福田康夫首相に提出しました。

 防衛省改革論議は、調達業者との談合やデータ捏造(ねつぞう)など防衛省・自衛隊の不祥事が多発し、「国民の信頼を回復するため」というふれこみで昨年十二月から始まったものです。十五回の会議をへて出された報告は、不祥事の原因究明はなおざりにする一方で、かねてからの狙いである自衛隊の発言力増大と政策決定参加を具体的に提言しています。火事場泥棒といわれても仕方がありません。

権限肥大化の危険

 一連の不祥事の原因について報告書が強調するのは、個人の「責任意識の希薄化」です。しかしそれではすまないから改革論議をはじめたはずです。こんなことでお茶をにごされてはたまりません。

 守屋武昌防衛事務次官が装備調達をめぐって山田洋行の宮崎元伸専務(いずれも当時)に便宜をはかったのは、政軍財利権のあらわれです。そこにメスを入れないで、個人が悪いというだけでは、問題解決にもつながりません。

 イージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」に衝突し沈没させた事故では、「あたご」の当直士官らが「清徳丸」を認知できなかったのは「不運」だ、「人間の錯誤」だと強調しているのは見過ごせません。十二分前にレーダーで「清徳丸」の動きを知っていたのに、衝突一分前まで自動操舵(そうだ)で直進したのは、「そこのけそこのけ自衛艦が通る」という軍事優先体質の表れです。それにもふれず、自衛隊・防衛省の隠ぺい体質も問題にしないのではおざなりとしかいえません。

 報告書の本当の狙いは、海外派兵の本格化と海外での戦争参加に備えて、自衛隊の発言力を増大させ、政府の政策決定に参加させることです。イラクなどでの国際平和協力活動で「自衛隊をより積極的・効率的に機能させることができるようにする」といっています。

 提言は、自衛官を首相の補佐にするといっています。自衛隊の提案や考えを直接首相に伝え、政治決定に浸透するのが狙いです。

 「防衛政策」の企画立案にあたる防衛省の防衛政策局次長クラス以下に自衛官を組み入れる提言は、軍事知識が豊富な自衛官が海外での軍事作戦の方針づくりの主役になることを意味します。

 軍事作戦の実施を自衛隊まかせにするのも重大です。防衛省の運用企画局を廃止し、文官のチェックなしに自衛隊が海外で軍事作戦を実施できるようになれば、外交無視の軍事一辺倒の作戦行動になるのは必至です。

 自衛隊の権限を肥大化させ、軍事優先体質をさらに強めさせる報告書の具体化は許されません。

過去の弊害繰り返すな

 報告書が「軍事実力組織の暴走は防がなければならないが、…必要とされるとき機能しないのでは安全保障は保てない」といっているのは重大です。自衛隊に発言力をもたせないのは、「昔のような弊害を再び繰り返させてはいかん」(一九五四年五月 木村篤太郎保安庁長官、七月から初代防衛庁長官)という発想からです。

 そもそも戦力保持を認めていない憲法のもとで自衛隊の権限肥大化など許せることではありません。報告書は撤回すべきです。


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