2008年7月13日(日)「しんぶん赤旗」
主張
諫早湾開門調査
国はいつまで引き延ばすのか
政府が、諫早湾干拓事業潮受け堤防の開門を命じた佐賀地裁の判決に従わず、福岡高裁に控訴したことに、有明海沿岸の漁業者などが強く反発しています。農林水産省は開門調査のための環境アセスメントを行うとしていますが、その結果、水門が開放される保証はありません。「時間稼ぎではないか」「リップサービスだ」という反発は当然です。
国の「立証妨害」批判
裁判は、長崎、佐賀などの漁業者らが諫早湾干拓事業で被害を受けたとして、干拓のための潮受け堤防の撤去などを求めたものです。佐賀地裁の判決は、堤防の撤去こそ認めなかったものの、漁業被害についてはその一部を認めました。しかも被害状況の調査のために中長期の水門開放が求められているのに実行しようとしない国の態度は「立証妨害」であり、「訴訟上の信義則に反する」ときびしく批判し、水門の開門を命じました。
裁判所にここまで批判されても、なおそれに従わず控訴して争うというのは、文字通り「立証妨害」であり「信義則に反する」ものです。政府の姿勢がきびしく批判されるのは当然です。
国の控訴を受け、被害が認められなかった一部の漁業者らも高裁に控訴しました。
諫早湾干拓事業が本格化した一九八〇年代の後半以降、諫早湾をふくむ“宝の海”と呼ばれた有明海の環境は急激に悪化し、特産のタイラギ貝やノリ、アサリなどの漁獲量が激減しました。この間、多くの漁業者らが干拓事業の中止を求め、二〇〇四年には佐賀地裁が工事差し止めの仮処分を認めたのに、政府はそれに従わず、工事を強行してきました。
二〇〇二年に行われた短い期間の開門調査でも、水質が劇的に改善したことが証明されています。干拓事業による諫早湾の閉め切りと、水質悪化の関連は明らかです。漁業者らは潮受け堤防の撤去か、さもなければ水門を常時開放するよう強く要求してきました。
佐賀地裁の判決は、三年間かけて必要な防災対策などを行った上で、五年間は水門を常時開放して、調査をすべきだと具体的に提案しています。高裁に控訴した国も、開門を「前提」に、環境アセスメントを行うなどとしているのは、判決を無視しきれなかったからです。しかし、農水省がやるのはあくまでアセスメントで、しかもアセスメントのあと、「関係者の同意」を得て今後の対策を検討するというものです。いつ開門するか全く見通しはありません。
政府が開門調査をずるずる引き延ばしている間にも、有明海の水質は悪化し、漁業被害は広がります。漁業者にとっては、刻一刻生活の場が奪われていきます。政府は開門調査を引き延ばすのはやめ、ただちに開門を決断すべきです。
大型開発事業見直しを
もともと諫早湾の干拓事業は、当初は「食糧増産」をうたい文句にしたのに、事情が変わったからと、「防災対策」などが目標に持ち出されてきた、目的のはっきりしない無駄な公共事業の典型です。その事業によって環境が破壊され、漁業者などの生活が脅かされているのに、計画だけはそのままというのは許されません。
開門を実現するとともに、これを機会に無駄な大型開発事業に抜本的なメスを入れるべきです。