2008年7月5日(土)「しんぶん赤旗」

主張

「あたご」事故解明

防衛省は司法まかせにするな


 イージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」に衝突・沈没させた事故(二月十九日)は関係者の書類送検などで一つの節目を迎えています。

 第三管区海上保安本部(横浜市)は事故前と事故時の当直士官二人を業務上過失致死容疑などで書類送検しました。横浜地方海難審判理事所は当時の艦長らと「あたご」が所属する第三護衛隊の審判開始を海難審判庁に申し立てました。早くから漁船を発見しながら衝突した「あたご」の規則破りの体質や隠ぺい体質をただすことなしに再発防止は不可能です。防衛省・自衛隊の姿勢が問われます。

ミスではすまされない

 検察に相当する横浜地方海難審判理事所の申立書が指摘する「あたご」の行動は、どれも常識外の異常なことばかりです。

 当直士官であった航海長は、事故の二十七分まえにレーダーで漁船三隻を見つけながら、見張り員にも指揮中枢の戦闘指揮所にも動静監視を命令せず、接近を回避する措置すらとっていません。

 事故十二分まえに当直士官を引き継いだ水雷長もレーダーで漁船群がいることを知りながら、見張り員に漁船の動静を監視するよう命令もせず、自動操舵(そうだ)のまま直進し続けました。しかも、九分まえには「清徳丸」などを直接「視認」したのに、減速もせず、法律で義務付けられた右転もおこなわないで直進し、衝突したのです。

 規則に反した「あたご」の行動が衝突事故の原因となったのは明白です。

 問題は、海保が送検した二人の当直士官がそろって、漁船群への接近を回避し、衝突を避ける措置をとらなかった理由です。

 海保の調べに見張り員が「相手がよけてくれると思った」とのべたことは、「あたご」の組織的体質を端的に示しています。海難審判理事所が指摘した規則違反の行為は、衝突されたくなかったら漁船が回避せよという軍艦優先体質のあらわれです。不注意やミスという類(たぐい)のものではありません。

 二十年まえに潜水艦「なだしお」が遊漁船に衝突・沈没させたのも、漁船の動静監視をせず、衝突回避措置もとらなかったためです。今回もまた同じ過ちのくりかえしです。規則破りの行動が相次ぐのは、「そこのけそこのけ軍艦が通る」という軍艦優先の体質によることは否定できません。

 イージス艦は、インド洋での米艦船給油作戦に参加し、アメリカの先制攻撃戦略の一翼を担うミサイル防衛の柱にされている最新鋭戦闘艦です。日米軍事同盟強化の中心的役割を担っているという意識が、「あたご」の体質に拍車をかけているのは明白です。防衛省が三月にだした衝突事故調査の中間報告ではこの視点がまったくありません。漁船や商船が安心して通航できるようにするため、防衛省は海自に根強い軍艦優先体質にメスを入れるべきです。

組織全体の責任を問う

 「清徳丸」の僚船「金平丸」の船長は、「当直士官二人はたまたま責任者だっただけ。組織全体の責任をあきらかにすることで、同様の事故をなくしてほしい」とのべています。重要な要求です。

 防衛省は事故原因の究明を司法まかせにせず、軍艦優先体質と組織的な隠ぺい体質を一掃し、実効性のある再発防止策をうちだす必要があります。


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