2008年7月2日(水)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症認定集団訴訟

国は全面的解決に踏み切れ


 原爆症認定集団訴訟での国の相次ぐ敗訴をうけ、安倍晋三首相(当時)が認定基準見直しを広島で約束してからまもなく一年になります。福田康夫内閣に代わり、新基準の決定・実施など事態は動き始めましたが、国・厚労省はなお裁判で争い続けようとしています。

無反省が解決をはばむ

 四月以降、新基準によって、集団訴訟の原告三百六人の半数余を含む四百人以上が認定されました。遠距離被爆や投下後の入市なので放射線の影響はない、疾病や障害は原爆のせいではないとされてきた人びとです。すでに従来の年間新認定者数を大幅に上回っており、いかに多くの被爆者の訴えが切り捨てられてきたかを示しています。それに加え、新基準でさえ被爆の実態に見合っていないことが、またたく間に証明されました。

 五月末の仙台・大阪高裁の判決は、新基準で「積極的認定」の対象となっていない疾病の原告をふくめ全員勝訴し、国は上告を断念しました。先月の長崎地裁判決も、新基準で対象にされていない肝機能障害の原告などについても、認定すべきだと判断しました。

 被爆者は国・厚労省に、新基準の再見直し、集団訴訟の全面解決に踏み出せと強く求めました。しかし国は、長崎地裁判決で「積極的認定」対象外の疾病・障害で国が敗訴した原告について、またも控訴したのです。切り捨ての認定行政を根本的に転換しようとする姿勢の欠如にほかなりません。

 厚労省は新基準の策定にあたり、これまでの判決できびしく批判された従来の切り捨て審査方針を「改める」としましたが、誤っていたとは認めません。「科学的には間違っていない」と正当化しつづけ、基準の見直しは高齢化する被爆者の「救済のため」といいます。

 しかし新基準の「積極的認定」の対象は、これまでのどの判決より厳しく疾病や被爆距離、時間などを線引きしています。対象外の場合は個別に総合的に判断するとしていますが、長崎判決の控訴は、新たな線引きが切り捨てにつながる危険を示しています。

 厚労省は肝機能障害についてまだ高裁段階の結論がないことを、控訴の理由にしています。しかし、これまでの地裁判決で肝機能障害の原告はほとんど勝訴し、放射線の影響を否定した判決はありません。しかもこの問題は、集団訴訟以前に東京高裁で国の敗訴が確定しているのです。

 判決も認めるように、原爆の人体への影響は、未解明です。だからこそ、これまでの判決が指摘しているように、被爆時の状況や行動、その後の健康状況などを全体的、総合的に検討し、疾病や障害の発症、悪化、治癒の遅れについて放射線の影響を否定できなければ認定するようにすべきです。そうしてこそ「救済」といえます。

国民の世論で決着を

 多くの原告が病とたたかいながら、「ふたたび被爆者をつくるな」との決意に支えられ、つらい体験を証言し、国・厚労省をここまで追いつめてきました。すでに五十人余の原告が亡くなり、これ以上の先延ばしは許されません。

 新基準の問題も明白になったもとで、さらに世論、運動を高め全面的解決をはからなければなりません。そのために、核兵器のない世界を求める広範な国民の力をいっそう結集することが必要です。


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