2008年7月1日(火)「しんぶん赤旗」
断面
博士の就職難
大企業の社会的責任を問う
博士課程修了者やポストドクター(半年から三年の短期雇用研究員、ポスドク)の就職難が社会的な問題となっていますが、これへの大企業の責任を問ううえで、六月四日の日本共産党の石井郁子衆院議員の国会質問は、重要な事実を指摘しました。博士の就職難は、政府が「院生の倍加」政策をすすめながら、大学や研究機関の研究職を増やさなかったこととあわせ、博士を増やすことを求めながら、その採用を増やそうとしない大企業の無責任が、背景にあります。
たとえば、製薬業などバイオ産業の業界団体である日本バイオ産業人会議は、一九九九年の提言「バイオ産業技術戦略」で、バイオテクノロジー産業の市場規模を二〇一〇年に、二十一倍の二十五兆円にするためには、「日本の博士はアメリカの三十分の一」だから、「大学や大学院での生物系の教育を受けた人材を拡充すべき」として、学部や大学院の再編、ポスドクを増やすことを要求していました。
こうした提言もあって、政府は、バイオテクノロジー(BT)戦略大綱(二〇〇二年十二月)で、「BTを支える人材供給の抜本的拡充」のために、BT関連人材養成プログラムを充実する大学への重点的な支援を行うとしました。このため、生命科学系の学部や研究科の新設が相次ぎ、バイオ系ポスドクも急増。ポスドク全体の中で、最も多い四割をしめています。
ところが、民間企業による博士やポスドクの採用は冷え切ったままです。就職支援雑誌を発行する「毎日コミュニケーションズ」の調査でも、ほぼ毎年博士課程修了者を採用している企業は2・9%、ポスドクはたった0・2%です。製薬大手は、国内研究所を相次いで閉鎖し、医薬品関係の研究者を、この五年で四割も削減しています。
大学や研究機関に対しては、研究成果(論文)を活用するために、博士やポスドクを増やすよう求めながら、その就職に対しては自らの責任を果たさない――こんな身勝手な話はありません。まさに若手研究者の“使い捨て”です。企業は、企業としての研究開発のためにも、増やした博士やポスドクを雇うべきです。
石井議員が、「大企業に、博士やポスドクの採用を増やすべきだ、社会的責任を果たせと求めるべきではないか」と迫ったところ、政府は「機会あるごとに求めていく」と答弁しました。大企業の社会的責任が、若手研究者の就職難をめぐっても、いま鋭く問われています。(土井 誠)