2008年6月29日(日)「しんぶん赤旗」

政治のいま なぜ

教育条件 世界と差

日本81万円 仏2万円―国立大学費


 日本の教育予算は、世界の水準と比べてあまりに貧しいレベルに落ち込んでいます。いまどんな状態なのか。なぜここまで差が広がったのか。考えました。(坂井希)


40人学級 「それで教育できるのか」

 日本の教育予算は対GDP(国内総生産)比で3・5%です。OECD(経済協力開発機構)各国平均は5%。日本は加盟三十カ国中、下から二番目という低さです。

 この結果、日本の教育の実態は深刻なことになっています。

 世界では少人数学級が主流です。ところが日本では国基準で一学級四十人まで認めているため、平均学級規模は他国と比べ際立った大きさです。

 「欧州で『日本の小学校は平均二十八人学級だ』と話すと『それで教育できるのか』と驚かれます。『教育は対話を通じた相互活動。一クラス二十人程度が限度』というのが、欧州では常識なのです」と、都留文科大の佐藤隆教授(教育学)は話します。

機会均等へ努力

 大学の学費はどうか。日本では初年度納付金(入学金+授業料)が国立大で八十一万七千八百円、私大で平均百三十万八千三百二十円です。日本学生支援機構の奨学金は返還が必要な貸与制で、そのうち有利子が六割を占めています。

 英国も欧州の中では高学費ですが、返還しなくてよい給与制奨学金があり、家庭の年収が五百二十五万円以下の場合で約五十九万円受け取れます。卒業後、年収が三百十五万円以上に達してから返還すればよい貸与制奨学金もあります。

 米国では学生の七割が、私立に比べると学費が安い州立大に通っています(日本は私大に七割)。給与制奨学金を44%の学生が利用。貸与制も含めると82%の学生が財政支援を受けています。

 ドイツでは、半数以上の州で授業料無償です。最高年額約六十万―八十万円の半額給与・半額貸与奨学金を25%の学生が受けています。

 フランスは授業料無償で二万一千円の学籍登録料がかかるのみです。ほかにチェコ、デンマーク、ポーランドなど欧州の多くの国々で、大学まで無償です。

 前出の佐藤教授は「フィンランドも公・私立を問わず学費は大学まで無料です。給食費や交通費も家庭の負担はゼロです。同国の憲法は日本国憲法と同様、教育の機会均等を定めています。これを文字通り実現する立場で、政治が努力しているのです」と話します。

「受益者負担」論で予算抑える

 なぜ日本では、教育予算が低く抑え込まれてきたのでしょうか。

 「『財政難だから』という政府の説明は違います。『教育は国民の権利だから公費による教育を拡充する』という考え方がないからです」。近畿大学の土屋基規教授(教育行政学)は言います。

 憲法第二六条は「義務教育の無償」を定めています。ところが政府は「これは国の努力目標を定めた条文で、個々の国民に具体的権利を与えるものではない」という解釈を続けてきました。

 一九六四年二月の最高裁判決は「義務教育の費用はすべて国が持つべきものではなく、親も応分の負担をすべきだ」との見解を示しました。この後「無償」の範囲は公立義務教育学校授業料と教科書代に限定され、「教材費や給食費などは家庭が負担して当然」という流れがつくられました。

 一九七一年の中央教育審議会(文相の諮問機関)答申は、大学学費について「大学教育で利益を得るのは学生だから、費用も学生が負担すべきだ」という「受益者負担」論を提唱。この後、学費はうなぎ上りとなり、現在は七〇年比で国立大で四十五倍、私大で九倍にもなっています。

 八〇年代からは臨調「行革」の名の下に教育の民営化や規制緩和が進行。小泉「構造改革」がこれを加速させました。「良い教育を受けたければ自己負担を」という「受益者負担」論は、いっそう強められています。

 「政府は、親の教育熱心さにもつけ込み、教育の私費負担を増やしてきました」。こう話す土屋教授は、「七〇年以降、国の行政費に占める教育費の割合は、七五年の12%台をピークに、現在8―9%台まで下がっています。中等・高等教育の漸進的無償化を明記した国際人権社会権規約第一三条二項(b)(c)もルワンダ、マダガスカルと並んでいまだに留保している恥ずかしい状況です」と批判します。

政治動かすとき

 日本共産党はこれまでも、学費値下げや少人数学級、私学助成増額などを求めてきました。「教育投資の水準を他の先進諸国並みに」という声は、党派を超えて広がっています。この声に、いまこそ政治はこたえるべきです。

図

     

表


■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp