2008年6月21日(土)「しんぶん赤旗」
主張
難民増加
イラク、アフガン戦争の陰で
戦争が続くイラクやアフガニスタンからは、米軍の軍事作戦や爆弾事件などのニュースが連日のように流れ、子どもを含む一般市民が犠牲になっていることに心が痛みます。それでも、これらの国々で、はるかに多数の一般市民が難民として過酷な生活を強いられていることに思いをはせる機会は多くありません。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が十七日に発表した「グローバル・トレンド」報告は、そんな情報の空白を埋める材料です。
過酷な生活強いられ
報告によれば、紛争や迫害のために住み慣れた土地を離れ、国境を越えた難民の数は世界で約千百四十万人(二〇〇七年末)。〇一年から〇五年まで減少が続きましたが、この二年間は逆に増加してきました。
難民増加の原因として、報告は「イラク情勢の不安定さ」をあげています。難民の多いのがアフガンとイラクです。アフガンからは約三百十万人がパキスタンやイランなどに、イラクからは約二百三十万人がシリアやヨルダンなどに逃れ、UNHCRの支援を受ける難民の「ほぼ半数」にあたります。
千百四十万人とは別に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が支援する約四百六十万人のパレスチナ難民が、長期にわたる難民生活を強いられています。
国内にとどまって難民生活を送る人々もいます。こうした国内避難民は、ノルウェーの非政府組織(NGO)によれば世界で約二千六百万人。このうち約千三百七十万人がUNHCRの支援を受け、外国に出た難民を合わせた支援対象者数は「過去最大」になっています。
コロンビアは約三百万人と最大の国内避難民を出しています。治安部隊や極右武装勢力の暴力がその大きな要因になっていることは、同国に軍事支援している米国務省の「人権報告」も指摘しています。
死の恐怖を乗り越えても、難民の多くは衣食住にも困る生活を送らざるを得ず、今後の展望もありません。難民として合法的に外国に居住できても、仕事に就けない場合が多いからです。医療や教育などのサービスを受けるにも困難があります。
難民には、UNHCRをはじめとする国際機関やNGOが支援しています。しかし、財政に限りがあるなかで、世界的な食料価格の高騰が新たな障害をもたらしています。
国際社会は難民支援の強化を求められています。とりわけアフガンとイラクに侵攻し、難民を生み出した米英両国と「有志連合」などとして侵攻にかかわる国々には、難民を支援すべき特別な責任があります。
何よりも、米国がアフガンとイラクで難民流出の原因である戦争を終わらせ、コロンビアでも難民流出の背景にある軍事支援と干渉をやめなければなりません。
「世界難民の日」
二十日は国連総会が決議した「世界難民の日」でした。自然災害による難民問題も深刻です。国内避難民の数は紛争や迫害によるそれに匹敵するとされます。UNHCRは災害救援でも大きな役割を果たしています。ミャンマーのサイクロン被害では、日本共産党中央委員会に寄せられた救援募金(一次・二次分計千七十八万円)を志位和夫委員長がUNHCRに届けました。
気候変動は自然災害を拡大するだけでなく、資源をめぐる新たな紛争につながる危険が指摘されています。難民の増加を防ぐためにも、実効ある温暖化防止対策が必要です。