2008年6月13日(金)「しんぶん赤旗」

NHK番組改変

最高裁が不当判決

協力者の「期待権」退ける


 日本軍「慰安婦」問題を扱ったNHK番組が改ざんされたとして、市民団体「バウネット・ジャパン」がNHKと制作会社二社を訴えていたNHK裁判の上告審判決が十二日、最高裁第一小法廷でありました。横尾和子裁判長は、NHKに損害賠償を認めた東京高裁判決を破棄しました。

 判決は、放送法で規定されている報道・編集の自由をあげ、「取材を受けた側の期待や信頼は原則的に法的保護の対象にならない」と述べ、保護の対象となるのは「取材対象者に格段の負担が生ずる場合」と限定し、バウネットはこれに当たらないとしました。高裁判決では、取材に協力したバウネットの番組への期待を違法に侵害し説明義務を怠ったとしていました。

 番組が改変されたことへのバウネットへの「説明責任」についても、「特段の事情」がない限り「法的な説明責任が認められる余地はない」と退けました。

 焦点の「政治の介入」について、高裁判決ではNHK幹部が自民党の安倍晋三官房副長官(当時)らの発言を忖度(そんたく)して番組改変を行った事実を認めました。しかし、判決ではNHK幹部との接触を認めただけで、改変に至った過程で与党政治家がどのような影響を与えたかなどの判断を避けました。

 原告弁護団は「政治家の圧力を正面から取り上げないまま、取材協力者の期待や信頼が保護されるのはきわめて例外的とした不当判決。憲法二一条を『政治家のための表現の自由』に変ぼうさせ、国際的に批判を受けるのは間違いない」とのコメントを発表しました。

 バウネットの西野瑠美子共同代表は記者会見で「政治家の介入を容認した判決に怒りを感じる。裁判には負けたが、政治家の意思を忖度(そんたく)して番組を改ざんした事実を人々の記憶に残すなど、七年のたたかいで大きな道を開くことができた」と語りました。


解説

問題の本質を外す

 問題の本質をことごとく外した判決でした。

 裁判の最大の焦点は、安倍晋三官房副長官(当時)の政治的圧力に屈して、制作現場をねじふせて番組の趣旨を曲げてしまったNHK上層部の行為が許されるのかどうか、ということでした。

 しかし、最高裁判決は高裁判決が認めた詳細な事実、安倍氏との接触後に大きな改ざんが行われたという編集過程の異常さを一顧だにせず、抽象的で形式的な「編集の自由」に終始しました。

 ここで問われるべきことは一般論としての編集権ではありません。高裁判決が判断したように、NHK上層部による番組改変は「憲法で保障された編集権を自ら放棄したに等しい」もので、政府・自民党との近すぎる距離が問われたはずです。

 憲法二一条の表現の自由は、誰のために何のためにあるのか。政治家の圧力に屈した編集についてまでも、表現の自由を認めているのか。報道機関の報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものであるがゆえに、もっとも権力から自立していなければならないのです。

 これまで闇に埋もれてきた政治介入の事実が、市民の訴え、現場スタッフの告発で明らかになった意義は、改めて記憶にとどめたいことです。(板倉三枝)


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